第13話 取り調べ(2)

「何でそんなことしたんでしょうね?」

「江田さんに好意を持っていたみたいです。大企業のサラリーマンでお金もあるし…ということで。しかし、江田さんは都内に自宅があるのに、何でシェアハウスなんかに住んでいたんですか?」

「一人でいるのに飽きたと言いますか…」

 俺は本音を言った。警察の人は呆れたようだった。完全な無駄遣いだった。


 俺が家に帰ると、あの女からLineが来ていた。俺はぎょっとした。既読無視しようかと迷っていると、次の瞬間、思いがけないメッセージが表示された。


『廊下に江田さんのマイナンバーカードが落ちてて』


 俺はそれを失くしていたことに気が付いていなかった。普段、財布にいれているつもりだったのだが、そう言えば、財布から出して部屋にあった引き出しに入れたんだった!でも、私物は全部持ち帰っていたはずなのだが、なぜ廊下に落ちてたんだろうか。全く見当がつかなかった。


 女が部屋に入ったんだろうか。他に考えられなかった。俺は面倒だから、破棄するように頼んだ。マイナンバーカードは再発行すればいいんだ。番号も変えてもらおう。


『でも…再発行が結構面倒ですよ。私の知り合いもなくして…警察とマイナンバーのコールセンターに電話したりしないといけなくて…お届けしましょうか?お忙しかったら』

『いいえ。結構です。お手を煩わせてすみませんでした』


 俺は女のアカウントをブロックした。


 そんなウソつき女と関わったら、どんなトラブルに巻き込まれるかわかったもんじゃない。それなら、マイナンバーカードがしばらくなくても我慢するつもりだった。


 すると、たまたま同じ日にKさんからも電話があった。

「久しぶりです。元気ですか…?江田さん」

 俺は嬉しかった。俺のことを忘れた訳じゃなかったのだ。

「はい。もちろん。大丈夫ですか?入院したって聞いたんですけど」

「ええ。まあ、三日くらいですけどね。それより、管理人さんが亡くなってしまったみたいで…」

「はい。本当に急で…びっくりしました」

 俺たちはお互いの近況を報告し合った。

「ああ、よかった!もう出たんですね。あの地獄のシェアハウスを。あそこに、眞田って女がいるじゃないですか」

「はい」

「あの女、まじ、やばいですよ!」

「え、何かあったんですか?」

「うん。ほかの部屋の人が自分の部屋や風呂を覗いてるって言って来て…俺も信じてましたよ。しばらくは」


 年齢や容姿を問わず、女の裸を見たい人はいるのかもしれないと俺は思っていた。

 

「あんなおばさん覗くわけないじゃないですか」

「でも、女が一人しかいないからね」

「それで嘘だったんですか?」

「さあ…確かめようがなくて。でも、あの女、夜中に俺の部屋に入って来て…」

「え、まさか!」

「一夜の過ちって言うのか…ほんと恥ずかしいんだけど。そしたら、そっから脅されるようになって…」

「へえ」

「会社に言うぞって言うから、俺も言えばって言ったら、病院行ってサンプル取って来たとか抜かして」

「へえ…じゃあ、脅されてたんですか?ずっと?」

「うん。それもあって出たかったんだよね。そしたら、江田さんが入って来て…俺の方に来なくなったから。ほっとしてたんだけど。脈無しだと思ったのか、また俺にもちょっかいかけて来て」

「へえ…気持ち悪い女ですね」

 

 その後、俺は俺のマイナンバーカードを女が持っているということを話した。しかも、落とすはずのない場所にあったと抜かしていると付け加えた。


「マイナンバーって家の住所が書いてあるから。気を付けないとね」

 

 そうだった!

 俺は目の前が真っ暗になった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る