第11話 管理人の部屋

 俺は心底、そのシェアハウスにいるのが嫌になってしまった。もう飯代は諦めて、退去の申し入れをメールで送ることにした。管理人に申し訳ない気がしたが、何となくそこにいるのが怖くなってしまったからだ。


 朝起きた時、まだ管理人から返事は来ていなかった。見ていないのだろうと思った。または、どう返事を書くか迷っているかだ。


 その後、食堂に行くと、誰もいなかった。いつもは朝食を食べる人でいっぱいなのに。

 すると、入居者が向こうから歩いて来た。その人も、毎朝、食堂で朝食を食べている人だった。挨拶しかしたことがなかったのだが、俺は不安に駆られて誰かにすがりたくなったのだ。


「おはようございます。今朝、朝食はないんですか?」

「いや…管理人さんがいなくて。連絡はなかったんですけど」

 もさっとした感じの人だったが、普通に答えてくれた。

「え、そうなんですか?管理人さん、部屋にはいないんですか?」

「僕はまだ行ってないんですけど…そう言えば、どうしたんでしょうね」

「もしかして、具合が悪いとか…」

「そうですよね。そんな無責任な人には思えないですし…」

「じゃあ、ちょっと行ってみます…気になるんで」

「行ってみましょうか…あり得ますよね。倒れてるってことも」


 心臓麻痺とか。俺ははっとした。五十を過ぎたら人間どうなるかわかったもんじゃない。その人も、管理人を心配して後からついて来た。


 俺は管理人さんの部屋にドアを強めにノックした。

「管理人さん。大丈夫ですか?」

 反応がない。

「おはようございます」

 そうやって一分くらいドアを叩いていたが、埒が明かないので、俺は言った。

「念のため、入っていいですか?」

 返事はなかったが、勝手にドアノブを回してみた。


 すると、次の瞬間目の中に飛び込んで来たのは、想像とは全く違う物だった。


 天井からぶら下がっている管理人さんがそこにはあった。

 

「管理人さん!」


 俺は叫び声を上げていた。


 


 

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