第10話 前科のある住人
あの日以来、俺が会社に行く時、おばさんが必ずついて来るようになった。はっきり言って邪魔だった。
「今度、飲み会やらないかっていう話になってるんですけど…江田さんもご一緒にどうですか?」
「僕、酒は全然ダメで…」
「じゃあ、食事会にしましょうか。江田さんの歓迎会」
「いやぁ…もう、半年月以上経ってるんで…」
俺は面倒なので断った。おばさんはがっかりしていたが、また別の話題を話し始めた。おばさんは意外と話が上手かった。ついつい聞いてしまうような情報をたくさん持っていた。
「5号室の城山さんっているじゃないですか」
「はい。メーリングリストの」
「そう。言っていいのか迷うんですけど。あの人…実は前科があるんですって」
「えっ!」そんな人と一つ屋根の下で暮らしているなんて想像もしていなかった。
「会社のお金を横領して捕まったんですって」
「それ、自分で言ってたんですか?」
「タレコミがあって…」
「どこに?」
「管理人さんに」
「管理人さんと仲いいんですか?」
「いいえ…でも、管理人さんから全員に、城山さんはこういう人だから気を付けるようにってお話があって」
俺は心底後悔した。やっぱり、シェアハウスは得体のしれない人が住んでいて怖いなと思った。
「城山さんって仕事されてるんでしたっけ?」
「いいえ。今は生活保護受けてるそうです」
「よく知ってますね」
「みんな仲がいいですから」
管理人は生活保護の人でもよかったのかなと不思議だった。そう言えばそのシェアハウスでは源泉徴収票などを出すようにと言われなかったのだ。多分だけど、管理人が素人のまま不動産業を始めたものだから、入居審査がどういうものかを知らなかったではないかと俺は思った。そう言えば、保証人も取らなかったな。管理人さんは人を信じやすい人なのかもしれない。
少し気の毒になった。俺の気持ちとしては退去で決まっていたのだが。
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