第4話 管理人

 サンクチュアリで生活を始めて数カ月が経った。平和そのものだった。何の事件もない。同じ毎日の繰り返し。日々変わるのは、食堂のメニューくらいだ。そして、管理人さんが日に日に更けて行くことだろうか。


 コミュ障の集まりの中では俺は陽キャの一人だったと思う。陰キャと陽キャが半々くらいで、俺ともう二人が陽キャ。陰キャが女性を含め四人だった。管理人さんは陽キャと陰キャの間くらいで、どちらとも上手く関わっていた気がする。


 陽キャの一人であるKさんは、俺と同じくサラリーマンだった。ともに都内に通勤していたから、朝一緒に駅まで行くこともあった。


「何でこんなところに来たんですか?」Kさんはいきなり言った。

 ちょっと言い方が直接的過ぎて、やや失礼だったが、根はいい人なのであまり気にならない。

「コミュ障なんで老後が心配で」

「僕もそうです。まあ、そうでなかったら、あんな所に行きませんよね」と、Kさん。

「あんな所って?そんな悪いところですか?」

「あそこは管理人さんが変なんで」

「そうですか?全然気が付きませんでしたよ」

 ちょっと面倒くさいが、いい人に見えたのに。

「あの人、日記に入居者の悪口書きまくってるんですよ。それに、ブログでも管理人の日記みたいなタイトルで俺たちのこと書いてるし。相当ストレス溜まってるみたいなんで…怖いんですよ。何かしでかすんじゃないかって…」

 Kさんは管理人のことを嫌っているようだった。まるで、事件でも起こすんじゃないかという口ぶりだった。


 俺は正直驚いた。すごく不器用な感じの人で、裏表を使い分けるような器用さがあるように見えなかったからだ。

「そのブログって…タイトル教えてもらえませんか。俺のことも何か書いてるかもしれないんで…」


 俺は会社に着くまで、電車の中でそのブログを読んでいた。俺の悪口がこれでもかというほど書き連ねられていた。


『都内に通勤する会社員(H氏)の男性が入居して来た。大企業の管理職だということで態度が偉そうで、話す時はいつも上から目線。まるで部下に向かって話しているようで、腹立たしい。あんな風だから結婚できなかったんだろうと思う。私生活にまで、職場での態度を持ち込んでいるのが痛々しい。いかにも友達がいなそうな人だ』


『勘違い管理職のH氏。入居者になれなれしく話しかけていて、不快だと、みな陰で言っている。自分がフレンドリーだと思い込んでいるが、みんな本当に迷惑している。面談で見抜けなかった自分が馬鹿だった』


『洗濯機が古いと文句を言っていて、自分のお金で買い換えたいと言っていた。協調性がなくてむかつく』


 この辺は想定の範囲ないだったが、いつも温厚そうな管理人さんに嫌われていたのは意外だった。俺はこれからどう接していいかわからなくなってしまった。

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