後日談
夫に対する愛情を失ったために、たとえ夫を苦しませるような事態に至ることになったとしても、私の心が痛むことはなくなった。
ゆえに、私は夫と義母の関係を公のものとすることにした。
だが、それは単純に近所の人間に夫と義母が身体を重ねている写真を送りつけるのではなく、不特定多数の人間が目にすることができる場所に、二人の関係や、愛し合っている現場の写真と映像を掲載したのである。
近所に写真をばらまくだけならばともかく、不特定多数の人間が目にすることができる場所に流出してしまったものは、無かったことにすることはできない。
これによって、夫と義母はどのような場所へと逃げようとも、その関係性に後ろ指をさされるようになったのだ。
報道されたところによると、何処へ逃げても同じならば、何処で何をしたところで同じだとばかりに、公共の場所で堂々と愛し合ったことによって、夫と義母は制服姿の人間に連行されたらしい。
その話を知ったとき、私は腹を抱えた。
***
友人である彼女を失って以来、私は他者と接触することを止めた。
何故なら、他者を信ずることができなくなってしまったからである。
友人でありながら、己の身勝手な思考のために私の生命を奪った彼女や、私が心から愛しているということを知りながらも、私のことを自身が義母と肉体関係を持ち続けるための道具としてしか見ていなかった夫など、私の周囲には、自身を第一としているために私のことを利用する人間ばかりが存在していたために、そのように考えてしまうようになったことは、仕方の無いことだろう。
だからこそ、私は誰とも親しくすることなく、黙々と仕事をこなす毎日を過ごしていた。
私と関わりを持とうとして近付いてきた人間は多かったが、私は全ての人間を拒絶した。
誰彼無しに強い口調で追い返していたために、私は他者から避けられるようになっていたのだが、それで良かった。
誰でも秘密を抱えているだろうが、そのために私が利用されてしまうことを避けられるのならば、孤独なままで構わなかったのである。
ただ、申し訳なさを覚えている相手が存在していた。
それは、私の記憶の中に存在している、子どものことである。
私が夫との関係を断絶することが無ければ、何時の日か再会することもできただろうが、それが叶うことはない。
たとえ再び過去に戻ることができたとしても、私が夫を愛することはないために、私の子どもは、私の記憶の中以外では存在することができなくなってしまったのだ。
それは、誕生していたはずの生命を奪ったということに他ならない。
つまりは、私もまた、罪深い人間なのだ。
彼女のように、死を以て罪を償うことも可能だろうが、私がこの世を去ることは、記憶の中に存在している子どももまた、姿を消してしまうことになる。
ゆえに、私は何があろうとも、一秒でも長く生きなければならなかった。
それだけが、私に出来る、子どもに対する唯一の罪滅ぼしなのである。
私の感情の終着点は何処か 三鹿ショート @mijikashort
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