第6話 お泊まり
この漫画喫茶は、動画サービスも充実している。
アニメや映画が見放題だ。アマプラやネトフリのような大手ではないが、暇つぶしには充分だ。
「なんか、癒されるやつが観たいなぁ」
数多ある作品を一つに絞るという、案外体力を使う作業に苦戦している真緒。
選択肢が増えた現代ならではのストレスと言えなくもない。
20分ほどマウスを彷徨わせた結果、お互い観たことがある田舎が舞台の日常系アニメに決めた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
先の展開を知っているので、何のリアクションもせずに観続ける。
日常系って、何度観ても飽きないから不思議だ。分かりやすい教訓がないからか、流れるように身を預けられる。
気がつけば、5話まで一気に観てしまった。
何の生産性のない約2時間ちょいを惜しまないのは、俺が何かを成し遂げようとしていない人間だからだろうか?
しかし、横には小説を書ける黒ギャルという、生産性の塊みたいな奴がいる。作家にとって時間は財産だろうに、こんなことをしていて不安にならないのかね。
「ふぅ」
ゴロンと横になる真緒。
気持ちよさそうに寝息をたてるギャルを見ていたら、俺も眠くなってきた。
現在17時30分。
今日は日曜日だから、急いで帰る必要はない。
座椅子に身体を預けて、10分だけ休憩することにした。
\
体感は30分ちょいってところだった。
少し寝過ぎた自覚はあった。
目がまだ重いが、母さんを心配させるのも申し訳ない。そろそろ帰らなくてはと、スマホを取り出して時刻を確認する。
20時18分。
「‥‥‥は?」
3時間が溶けていた。
現実をゆっくり受け止める。大丈夫。電車は余裕で動いている。そんなに焦ることではない。とりあえず、母さんにLINEしよう。
LINEアプリを起動すると、母さんからの通知が5件きていた。俺なんかよりよっぽどドッシリしたあの人は、息子の帰りが少し遅いくらいではLINEなどしない。
嫌な予感がしながらアプリを開くと、こう書かれていた。
<外すごい雨だけど、アンタ大丈夫?>
\
「こりゃダメだ」
真緒が外を覗きながら言う。
「さすがに危ないから泊まってきなよ」
関東はそこまでひどいことにならないと言われていた台風が、微妙に進路を変えやがった。
おかげで、交通機関は止まるし外を歩いたら、いつ看板とかが飛んでくるか分からないありさまだ。
「うん」
母さんにも外泊の許可はとっている。
料金も、ナイトプランという夜に利用すると安くなるシステムがあるらしく、何とかなりそうだった。
「じゃあ、おやすみ」
「ん?どこ行くの?」
キョトンとした顔で真緒が聞いてくる。
「そりゃ、自分の部屋を借りに」
「無理無理。こんな状態だもん。絶対全室埋まってるよ」
「え?」
急足で受付のお兄さんに空いている部屋はないか確認しに行く。
「すみません。只今満席になっております」
丁寧に対応してくれるお兄さんにお礼を言ってから真緒の部屋に戻る。
俺を見送るお兄さんの視線が妙に生温かかったのは見なかったことにしよう。
「ほら見なさい。私に会いに来てくれたんだから、赤井の分も払うよ。ママも許してくれるって」
「‥‥‥」
俺が変なことをしないと信用してくれているのか、単に異性として眼中にないのか。
こうして、俺は真緒と一緒の部屋で泊まることになった。
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