第4話 初のVR

 ログインしてみると、そこに広がっていたのは西洋風な街だった。

 ゲームなのに壮大な空が広がっているのは不思議な感覚だ。


 「うわっ! すごい……現実みたいだなぁ」


 これが、フルダイブ型のVRか。

 ホントに異世界に来たみたいだな。

 CMではよく「ここは異世界」みたいな事言ってるの聞いてたけど。


 ホントに異世界に来たみたいだな。

 しかも、草木の匂いまでする。

 風が頬を撫でるのも感じる。

 

 あっ。あれが集合場所の噴水か。


ドンッ


「あっっと、すみません」


 あ然として周りを見ていたから、歩いていた人にぶつかってしまった。

 その人は会釈すると去っていった。

 皮鎧のような軽装でグローブをしていたように見える。


 凄くガタイがいいが、歳がいっている感じがした。

 あの人も武術士かな?


「噴水の前って言ってたよなぁ」


 いろんなプレイヤーが噴水の前で待ち合わせしているようだ。


 ここで待ち合わせって言ってたけど。

 悠人はどこだ?


「おーぃ!  こっちこっち!」


 手を振って俺を呼ぶ人がいる。

 あれが悠人か?


 駆け寄ると他にも女性プレイヤーが2人いた。

 知り合いかなにかかな?


「え~と、悠人で合ってるよな?」


「合ってる! こっちではガントだけどな! リアルネームを呼ぶのは一応マナー違反だから、こっちではガントって呼んでくれ!」


 ガントを見ると赤い髪で赤い目、騎士っぽい格好で、盾と剣を持っている。ガントは騎士にしたんだな。意外だ。


 大方、いつもと違う体験がしたいからとかそういった感じの理由だろうけど。


 ガントはさて置き、女性プレイヤーに視線を向ける。どっかで会ったことあるような……。


「なぁ、ガント。この人達は知り合いか?」


「ちょっと! 私達がわかんない訳? そりゃ少しは顔変えてるけどわかるでしょー!?」


 いきなりそんな事を言われましても。

 俺は貴方を知らないんですが。

 でも待てよ。

 このズケズケとものを言う高圧的な態度は……。


「朝陽か?」


「ようやくわかったの!? 遅いのよ!」


 はいはい。

 すみませんでした。

 なんでいつもそう怒るかなぁ。


 金髪のボブで、目も黄色になっている。白装束のようなものを着ている所をみると職業を神官にしたのか?

 不機嫌丸出しで腕を組みながらプンプンしている。


 腕を組んでいると持ち上がった双丘が目に入ってしまった。

 こんな所までリアルに再現しなくて良いってんだよ。


 目のやり場に困るわ。

 でも、普段と明らかに違う服だからか、コスプレ感があって……なんかいいかも。

 

 違う違う。

 そもそも、神官様がそんなに不機嫌そうにしてていいもんなのか? 声に出したら絶対怒りを買いそうだから言わないけど。


「ワタシも……一緒」


 二人で居たからもう一人はそうだろうとは思ってた。

 けど、結陽はまたちょっと変わった感じの装備だな。


 それもちょっといいな。


「おう。結陽。結陽はこっちでの名前はなんて言うんだ?」


「こっちでは……イブ……そうよんで?」


 コテンと首が傾げる仕草を見せるイブ。

 やっぱり癒される。

 

 暗い紫の色の髪で紫の目をしている。

 装備的には暗い紫のローブを着て手には杖を持っていた。


 その装備を見るに魔法職だろうな。

 なんの魔法スキルを取ったんだろうか。

 イブならおそらく闇を取っているとみた。


 ふと、朝陽の頭上を見る。

 あっ、頭上にプレイヤー名が表示されてたんだな。


「朝陽は、モー二って名前にしたんだな」


 朝だからモーニングからとってモーニか。

 ということは結陽は言葉を変えると夕日。

 イブニングでイブってことか。


「ちょっと安易な気はするけど、面倒臭いし、イブと一緒に決めたのよ……そういうアンタもフーマって……読み方変えただけじゃない!」


 そう。何を隠そう俺も読み方を変えただけだから。なんならモーニ達より捻りがない。


 名前なんて結構みんな安易なの付けてんだな。

 ガントも苗字の岩田から読み方変えてとったんだろうから。


「まっ、揃ったことだし……狩りにでも行くか!  あっ、その前にフレンド登録しておこうぜ!」


――――――――――――――――――

ガントからフレンド申請が来ています。

――――――――――――――――――


 なんだかポップアップが目の前に表示された。


「それを承認してくれ!」

 

 承諾をタップする。


「よし! 気を取り直してひと狩りいこうぜ!」


「ちょっとー? フーマは今始めたばっかりなんだから、回復薬買っておいた方がいいんじゃないの?」


「ヴッ。そうだな! 回復薬買ってから行くか!」


 何やらモーニが正論を言ったようだ。

 回復薬? 生命力を回復するやつか?

 ちゃんと調べてからインすれば良かったな。


 道具屋に向かって歩いている途中、自分の姿とみんなの姿を見比べる。

 俺だけ初期装備なんだけど、どうしたらいいんだ? これは。


「俺は、装備このままでいいのか?」


「あぁ、まだこのファステナ周辺なら初期装備のままの方が良いんだよ! 攻撃力はイマイチだけど、壊れたりしないからな!」


 詳しく話を聞くと、初期装備は耐久値が減らないらしい。知らないことも沢山あるけど、街並みも綺麗だし楽しいなぁ。

 うん。これは、いい気分転換になるかも。


 こうしてフーマ達の冒険は始まったのであった。

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