第17話 呪いふたたび

 ナ・ム・サンがアガルタから戻ってきた。

 

先の北署の管轄で起きた親子殺人事件を調べ透明状態であらゆる場所に潜入し関係している参考人たちをリストアップしていた。


 彼らの手土産は、北警察署管内・先の事件で亡くなった親子そっくりの

「アンドロイド2体」だった。

 

 手探りで日々を過ごしていた一凜は、ナムサンの帰りを誰より心待ちにしていた。


戦いへの迷いを打ち消すため、署員を交代で武術指導し、監督は副署長と厳道・力道・戒道が勤め、射撃、打撃・逮捕術、これでもかと繰り返し鍛錬を繰り返していた。


 その中には、きたいち興信所のはからいで北条ホテルの警備部と交代でコックたちも突発的に参加、緊急時の避難誘導や予期せぬ攻撃に対する武器による反撃と防御法を学習していた。


 皆には、告知されてはいないが、実は北条ホテルのコックたちは、ほとんどが元・自衛隊出身者だった。

例のスカウトで集められた、はぐれ者たちだ。


 一凜は、結局、父上・北条一行と母上・北条一華ほうじょういちかに、協力を頼む決心をして

 かつて親子ゲンカして啖呵を切り、館を飛び出して以来、

久しぶりに北条の館に愛車マックスで乗り付けた。


 警察の制服姿で訪れた一凜かずりに対して父・一行は大変喜び

「酒だ、つまみだ」召使いたちに言いつけ、優しく迎えた。


 だが、母・一華はというと、祈祷部屋から中々出てこず、何か一荒れ起こりそうなので父と娘は、こそこそと

「揉めたら止めてね」と話し合いながら一杯やり始めた。


 そもそも、署長は実家に来るつもりはなかった。


だが、ここ数日、件の核兵器奪還作戦の日が近づくにつれ、ちょっとおかしなことがあった。


 外出から一凜が署に戻ると、署員の誰かが

「あれ?いつ外出されたのですか?」とか


「着替えたんですか?」

などと聞いてくる、不審に思い理由を尋ねると


「先ほど署長が、お帰りになった時に、敬礼し挨拶を交わしたのに、また外から署長が帰ってくるので変な感じです」

などと言う。


そして、自分の机の上に、手紙が置かれており

「作戦の前に、父上、母上に必ず謝罪を入れなさい」と書いてある。


その筆跡は一凜本人のものと同じだった。


 ナムサンの予想では

「それ、未来から来た一凜が置いていったんだ」と言う。


それで嫌々ながらも、未来の自分に従い実家を訪ねた。


 そこへ、母上・一華が、やって来た。


そろり、そろりと、白と赤の巫女装束でドアを開け入って来る。

「あーら珍しや、一凜や、顔色悪いぞ、本当は、どやしつけてやろうかとも思ったが、

お前どこで、そのけてきおった」


 一凜はギクリとした。

 

「うーむ・・・、お前最近、毎日、ふわふわした気持ちで不安であったろう・・・

私が情けないのはな、お前が放蕩娘だとか結婚しないとかそんなことではない、

仮にも、修行した身でありながら、これみよがしに「呪い」を背負って実家に来るなど・・・・

しっかりせいっ!!一凜かずりっ!

昨今、お前の心穏やかでないのは、そののせいじゃっ!

心当たりがあろうぞ」


一凜は、母・一華から目が離せなくなり、背筋を伸ばして座ったままだ。


父上・一行が酒を飲みながら口を挟む。

「あれま、本当か・・・気がつかなかった」


一華は一凜の肩を憎しげににらんだ。

「真っ黒い呪怨が肩に、しがみついておるわ」


【なまなり】とは人間が闇魔えんまに、その身を捧げ代わりに呪いをかけるという、命懸けの悲しくも厄介なたぐいの呪法及び鬼の総称だった。


一凜は、ここ最近、どこで憑いてしまった呪いか心当たりを考えた。


きっとまた、呪術使いが絡んでいるに違いない。

「はい、いくつか心当たりが、ございます・・・」


「ふーん、元はといえば、お前に隙があるから、そんなことになるのだ、どこぞの男の事でも考えておったか」


「いえ、仕事のことばかりで、そんな気持ちはありませんでした」


頭を下げる。

「んー、やけに素直ではないか、まぁよい、そんな雑魚、すぐに落としてくれるわ、

ま、思えば正義のためにと・・・敵を作ってきたからな、逆恨みもキリがないだろう・・・

一久からも聞いたわ、なんでも少々厄介な作戦があるらしいな、自分だけならまだしも、

さすがに自分を慕う部下の命が惜しくなってきたのだな・・・」


「はい」


なんだかんだ言って一凜は、味方の母上に涙が出そうになった。

さんざん生意気を言って、つっぱって来たのに・・・


「あい解った。一凜、憑き物落としは、素戔嗚尊スサノオ様に、

そして作戦の際には、不動明王様に見守ってもらおう、

迷いなく作戦におもむけ、よいな、お前に不動明王様の、お力を分けてもらおう、さ、来い」


 一凜は母上・一華に言われるまま、しずしずと祈祷部屋に向かった。


あっという間に、愛娘・一凜を連れて行かれた父・一行は、

『のけものは嫌だし、久々、俺も作戦に参加しようかな・・・』

とアジト周辺の地図なんぞ魚に、独り寂しく残りの酒に手を出した。

 

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