第10話 厳道・故郷に帰る

 終戦後、北条一ほうじょうはじめは、ナムサンの案内で

アガルタに出向いたり、自分の過去や前世についても調べていた。


 ナムサンの信頼は、名付け親「ヒロミチの尊」の七光りで、やりたい放題、北条は霊界にですら見学を許され、月や金星、火星のそばに迄も行ったり来たりしていた。


 そして、現時点でのキーパーソン選びを考え、タイムトラベルも視野に行動を開始していた。


 さて、結婚において、身なりを整えた仙人、インドのヨガ・少林寺拳法の流れを汲む

羅漢拳を得意とする

厳道げんどう」と

その弟子で、合気道を得意とする

力道りきどう

忍術・武器を得意とする

戒道かいどう

そして北条一の四人は、嫁の待つ青森県の陸奥むつにテレポートした。


 その昔、女人禁制の山で修行をしていた阿闍梨あじゃり

一生、貞操ていそうを守り神に仕えると誓ったはずの巫女。


 寺と神社を破門になった厳道と妻子は、かつての修行仲間にもらった餞別を元手に妻の実家がある・青森に移り住み、畑仕事などして生活をはじめたが、娘が五歳になった、ある日。


「ちょっと行ってくる」と出かけた厳道は十五年も家に帰っていなかった。


 これには北条も呆れたが、実は込み入った事情があった。


とのしがらみで、面倒な無理難題を抱え、その贖罪しょくざいと破門に伴う問題を解決しに行っていたのだった。


 厳道が破門になり、山を降りる時、仏道を大きく外れ権力と金と女に溺れた身内の僧侶16人の寝込みを襲い手にかけて殺していた。


 山は天地がひっくり返る程の大騒ぎとなった。

 

 修行は楽なものなど一つもない。


進んで仏道に入ろうが、成り行きで入門しようが、それを望まぬ者には楽しいことなど一つもない。


 だが、一度、目覚め、自分の命に目が向き出すと、あらゆる仏の加護に気がつき、他人の苦しみも理解し、世俗の声も耳に入らなくなり、更なる高みを目指して厳しい修行にも耐え、長となってみれば


 それは、腫れ物に触るかのような態度の弟子や陰口を叩き皮肉しか言わぬ先輩たちとの生活の中、厳道は孤独の度合いを増し、いつしか物言わぬ仏様のことも曖昧となってきたとき、美しい巫女と出会った。

 

 寺の最高責任者であった厳道は、毎週末、寺の金を持ち出しては山を降り遊んで帰ってくる、先輩外道たちを

「なんとかせねば、にも下にも示しがつかん」と決心していた。

 

 寺を汚した者たちを成敗し天誅てんちゅうを下してしまったのだった。


「わしも未熟者だった・・・そして寺の誰よりも一途で、純粋でありたかった。

だが、殺人は天に言い訳はできぬ。

いつの日か、地獄に落ち、罰を受けるのはわかっているが・・・

あの外道たちは、この私が犠牲になろうとも、生かしておけぬ存在だったのだ。


嘘を平気でつき、酒池肉林の日々を送り、金を追い求め・・・あの増上慢が・・・


どうしても許せなかった・・・


事実、内心・・・いや、法界の者たちも、来る時が来ただけだと言って

わしは警察に追われることもなく、今がある。

反省や後悔は毎日だが、所詮、人間だ、そこからは人間らしく有りたいと生きてまいりました・・・」

 

 死体は修行上の事故として片付けられ事件はに葬られた、警察沙汰にもならず、騒ぎになるのを危惧し厳道は破門なったが、破門状は法界に回ることは無かった。


 やがて大戦中、先の事件を知って、つまらぬ脅しをかけてくるものたちの始末や、怨霊となり自分に取り付いている彼らを払い供養するべく三重県や四国に遍路して廻り、

行きずりの人助けをしながら旅をし自分も怪我や病気があって、帰るに帰れない。


厳道は空襲後の焼け野原では、親のない少年二人を弟子にとって、肉を喰らい魚を喰らい、めちゃくちゃな旅をしていたのだった。


 さて、この度の縁談について、先だって厳道は青森に謝罪と、あらましや結婚について手紙を出していた。


しかし、女房は激怒していた、なぜなら幾許いくばくかの金は毎月送金されてはいたが、ろくな便りもせず家を捨てたようになっていたからだった。



 北条・厳道・力道・戒道の4人は、綺麗な背広にコートを身に付け、

家を探した。


 青森にも空襲があって、雪の残る青森の田舎街では復興作業が力なく進んでいて馬門村にある厳道の記憶の場所は更地になっていた。


 その一角に煙突から細々と煙を出している一軒のバラック小屋が見えた。

「柴崎」と表札があった。

人の気配に、中からモンペを、はいた女性が出てきた。

「どなたですか?」

続いて厳道の妻が飛び出してきた。


そのふたりこそ

柴崎千鶴子しばさきちずこ」と厳道の娘「一鶴いちず」であった。


 厳道たちを一瞥いちべつ

鼻息荒く、静かにあごで中に入れと千鶴子は客を招いた。


髪はぐちゃぐちゃで、もんぺ姿

鋭い目で睨みつける千鶴子は美しい顔立ちだった。


 彼女は長い間、この日を夢見ていた。


戻ってきた自分の憎き夫は、ヒゲを綺麗に剃り、長い髪をポニーテールに束ね、スーツにコートをはおり、革靴を履いて戻ってきた。


「寒い中悪いが、少しの間、二人は外で待っていてくれ」

厳道が弟子二人に促した。


 それでは寒いのでかわいそうだと

北条はテレパシーですぐにナムサンに連絡を取った。

北条にはテレパシー装置が頭脳に影響が無いよう体内にインプラントされていた。


 北条と厳道が中に入ると、バラックは狭く、寒く、ひどい有様で二人の苦労が感じられた。

厳道が口を開いた。

「家、どした」

背中を向けて、お茶の用意などしていた千鶴子は、わなわなと肩を震わせ、どやしつけてきた。

「があっ!どのつらさげて!はぁっ!かえってきたあっ!

なにほど二人して苦労さしたがぁ!なぁみてぇなおおばかけぇ!」


 物が飛んできた。


厳道は

「いや、悪かった、すまない、ゆるしてけれ」

ちゃっかり飛んできた湯呑を右手でサクっとキャッチしながら

正座して頭をさげた。


「このおーっ!湯呑受けやがって!すまねぇで済んだらけいさついらねぇべぇー!このばがけぇーっ!!」

街中に響き渡るほどの叫び声を上げ、千鶴子の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


「おかちゃん、わがったから、も、わがったはんで・・・」

娘、一鶴も千鶴子にすがりつき、泣き崩れてしまった。


 バラックの外では、宇宙人ナムサンと弟子ふたりが


「あーあ」悲しげに様子を伺っている。


まったく話し合いなどにはならなかったが

少し落ち着いてきて、北条は丁寧に正座して二人に挨拶をした。


「初めまして、北条一ほうじょうはじめと申します」


 ナムサンに青森の柴崎家座標宛にテレポートで車を送ってもらい

バラック小屋から一番近い駅前まで北条の運転で弟子も連れ6人で移動して駅前旅館の広い部屋をとって、ようやく結婚の相談が始まった。


 だがまだ、場の空気が悪いので、みんなで会食となった。


 感の鋭い柴崎親子には、まだ同席・面談は早いと言うことで

ナムサンの搭乗するUFOには、ビール・日本酒・鳥そぼろイクラかにめし弁当5個と紅鮭幕の内弁当5個が弟子から差し入れられた。

東北の地でUFOに乗った、グレイ宇宙人アンドロイドが飯を食っている・・・・。

「うが、うめぇな弁当」

「この酒もいける、地酒か」

「縁談、まとまるのかな・・・」

「まとまるさ、百万円は、どぎついからなあ」


 少し我に帰った千鶴子は、不機嫌なままで化粧もせず

着の身着のままで髪が、ぐしゃぐしゃ、恥ずかしくなってきた。

それは娘の一鶴も同じで、小さくなってずっと俯いていた。


 本当は二人共、綺麗な着物も服も持っていたが空襲で、みな焼けてしまったのだった・・・。


北条は言う

「今、世の中は、まだまだ戦後の混乱があります。

私は自家用の飛行機UFOを持っています。

今夜からでも、お二人共、函館に、いらしてくださいませんでしょうか、突然の話で戸惑われるでしょう。

地元の方々に、ご挨拶とか、今後の身辺整理など、何回でも青森と函館行き来しますので。


それと本来、結納の儀式などキチンとせねばならぬのですが、とりあえず支度金なども、ご用意いたしました。

なんの相談もなく,

お母様におかれまして、気分を害されるかもしれませんが、

こちらといたしまして、是非、お収めください。

いたらない私ですが、どうかお嬢様を、お嫁にください」


 先程から北条が風呂敷包を抱えていたので、皆、てっきり菓子折りだろうと思っていた。


開けて、差し出された箱の中身には、ぎっしり札束が詰まっていた。

千鶴子と一鶴は驚いた。


千鶴子は、うっかり聞いた。

「これ、わたしにくれるんですか?一体いくらあるんだべ」


「はい、少ないとは思いましたが、とりあえず百万円ほどです」


当時の百万円といえば1200万ほどの価値があった。


柴崎千鶴子は、びっくりして夫にいう

「おい、巌、何か悪いことでもしたのか・・・これは夢なのかい・・・」


厳道は、愛想笑いもなく真剣な表情のままだった。


一鶴は母に

「おかちゃん、これも、おとちゃんのおかげだべ、おら嫁さいぐすて、おかちゃんも、はごだてさ、なあ」


 北条が只者では無いことは良くわかった。


千鶴子は、北条に向き直って、先程までとは違う低いテンションで話だした。


「わかりました、その前に、一つ、お話しておきますが

私は元・巫女で、訳あって破門にはなりましたが

その時の知識と経験と能力を活かして

ここ陸奥むつにて生業なりわいにしてまいりました。


そして娘・一鶴も能力があり、恥ずかしくないしつけと修行を共にしてまいりました。

人間の手前勝手とは思いつつも日本古来の神々に祈りを捧げ

時に黄泉よみの国に行きそびれた者たちを送り

神様の力にすがって悪しきものを払う

き物落とし」を生業にしてきました。


言うなれば神に仕える身であります、当然、家族となれば、その私達に裏切りは許されませんぞ、あなたも神に仕える気持ちで娘を嫁にもらう覚悟は、ありますか」


それを聞いていた厳道は顔が真っ赤だった。


「おまえ、この、お方は・・・」


千鶴子に対し何か言おうとする厳道をたしなめ北条が言う


「お母様、実は、私、孤児で親がおりません。

私は、厳道様や、お母様のような親がいたら、どんなに心強いかと

永年、思っておりました。

裏切りなど、ご心配には及びません、何より一鶴様のような

美しい方、二度と、このような方に出会うことはないでしょう

私も神様は大好きです」


 一鶴は、じっと聞いていたが内心ドキドキして、顔が赤くなった。


千鶴子は、正面から北条一を見据みすえて少し安心した。


「よしよし、できた、北条様、ハラが減ってきました」


「はじめと呼んでください、お母様。

実は私もハラが減っておりまして、精進料理、特別に頼みましたので、

では食べますか?」


「あのー、俺たちは、もう腹ぺこでごぜぇますだ」

豪勢な、お膳を前に

もじもじして、厳道の弟子たちは我慢していたのだ。


「あははは」

初めて、みんな笑顔になった。


厳道が音頭をとった。

「あははは、ではまず乾杯じゃ」


静かに雪の降る青森・野辺地駅前旅館は暖かい心に包まれだし

これから起こる波乱万丈の未来に向け、幕が静かに開けていく・・・

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