第2話 津軽海峡

 青森県と北海道・渡島おしま半島の間には津軽海峡があり、

その海の底深くには青函トンネルがある。


 青函トンネルの工事には各分野のエキスパートが召集されJRの事業というレベルを逸脱した予算が投入された。


工事関係者には

「財政負担や危険度の問題ではなく、日本人の未来を担って、このトンネルを成功させて欲しい」

要人たちによる非公式の訓示まで発表された。


 その理由は一切公表されていないが、実は日本国に重大な事変が発生した場合。


本州から重要人物や一般国民の避難も想定した、このトンネルは日本人の重要な生命線となる日が来ると予想して建造されたもので

アメリカ国土安全保障省や国家安全保障局では


ジャパニーズスパイダーネット内・通称【ネブタロード】としてアメリカの要人たちも軍事目的の拠点として認知していた。


 アメリカの原子力潜水艦は太平洋側、日本の青森・岩手近海の海中で待機していることが多く、なりを潜めてはいるものの


現在、ロシア・韓国・中国側に面する日本海がアメリカにとっても重要海域で有事の際には、いち早く津軽海峡を抜け、場合によっては長距離弾道ミサイルで威嚇・攻撃・機雷封鎖するプランがあった。


 なぜ三沢に基地があるのか、なぜ青函トンネルなのか


それはテロを想定した場合、放射性物質が降り注ぎ地表が危険になるからだ。


東北には最も危険な通称『デーモン・プラットフォーム』がある。


世界的にも三本の指に入る重要な地域で某国のロケットが津軽海峡を通過した理由は、ここにあった。

 

 ジャパニーズ・スパイダーネットとは、地下鉄に名を借りた日本の大都市地下のトンネル通路の事。


これが、巨大シェルターだと思っている日本国民は少ない。


 各工事が開始された時代は、仮想敵国からのミサイルの驚異もあり、ターゲットになるのは本州の何処かが、よく防衛省の議題にあがっていた。


 そんな議題も一段落して比較的ゆるい体制の函館市でUFOが関係した事件が発生したため

自衛隊・函館駐屯地では最上級の待機命令・警戒レベルアップが発令、

非番の隊員も続々と駐屯地に集結した。


 日本国全土、関係各所では次なるUAP及びUFOに備え、非常警戒が発令された。


 津軽海峡の玄関、日本海側・海上自衛隊の潜水艦には最上級の警戒態勢が敷かれ無断で海峡を潜行航行しようとする他国の潜水艦には魚雷発射口を、これみよがしに開けて『ピンガー』を発射することが許可され


太平洋側の海中に待機していたアメリカ海軍の潜水艦には緊急ホットラインが入り、

青森・三沢基地の軍と連携し未確認の敵に備えるよう命令が出ていたが同時に事件現場で回収された二人の黒服の遺体を三沢基地に運ぶよう命令がくだされた。


 エンジンを停止し、無音で漂い、来るべき敵に警戒する潜水艦は不気味な悪魔そのものだった。


 日本国内在留のNSA及びCIA職員からは、三沢基地の入場と遺体確認のための手続きが進んでいた。

UFO爆破事件から10分も経たぬうちに、アメリカ国土安全保障省の上層部より国際特務警察・函館南警察署・署長・北条一凜の所有する衛星電話にホットライン入電。


「アメリカ海軍の軍人2名が黒服の遺体を回収に向かうので、速やかに対応されたし」との事であった。


 いくら管轄内で起きた事件であろうと日本の片田舎の警察署長にアメリカ国防のホットラインが入るなど通常ありえない、一凜署長の特権階級の高さが伺えた。


 一凜署長の手配により、海上保安庁の船2隻が緊急に手配され青森の太平洋側、洋上50キロの地点に向かった。

静かに浮上してくるであろうUSネイビー所属の潜水艦乗組員2名を無条件で入国許可し海上保安庁の船で函館港に案内することになった。

 

 ホットラインを受けた署長は内閣調査室・防衛省・国家公安部・税関・・・・・・と

関係各所に根回しをして、自分の身辺には南署愚連隊の他に

一凜署長自身の所有する民間興信所にも依頼してとにかく南署界隈を警戒・撮影することを手配した。


 この時、愚連隊はもちろんのこと興信所の民間調査員まで

一凜署長の独断で銃火器の携帯許可が下りた。


 問題が発生した場合に備え、自衛隊では装甲車とヘリの緊急出動に備えがされ南署の地下駐車場では署長専用の覆面パトカー・マックスとマシンガン・ガトリング銃座組立・RPGの点検がなされ

表向き国の許可のない南署秘密兵器6輪装甲車

通称『ブルドック』も動作確認が進み、

二台あるゴツイ顔の装甲車は初出動を待っていた。


その場合、乗り込むのは、愚連隊鬼軍曹こと副署長・秋葉と特殊機動部隊・チャレンジャーの面々と決まっている。


 黒服の遺体二名の輸送には、表向き、これまた国の許可なくパワーアップしたエンジンが搭載され、防弾ガラス・対爆発物対応装甲が改造装着された犯人護送バス通称ブレーメンが使用されるとしたが


実際は、バスをダミーとして

本当の輸送は

署長専用の覆面パトカー・マックスに二名の遺体は積まれることになった。

 

 署長は、これを身内の警察にもマスコミにも漏らさず秘密裏に行わなければならない。


 一つ間違えば、国際問題に発展しかねない状況。


日本国で一番デリケートなのは尖閣でも竹島でも北方領土でもない。

この津軽海峡の海底トンネル・各国潜水艦のシークレット行動、東北原子力施設群、仮想敵国を迎え撃つべく配備された千歳・函館・三沢の自衛隊だ。


 そしての恐山の神々もそれを静観していた。

「なにさが、はじまったみてぇだな」

(なにか始まったようだな?)


「んんだぁごったぁ」

(そのようだな)


「よそのがぁ?」

(異世界の魔物か?)


「わがんねぇ、まっとよぐみえるどごさ、あんべ」

(わからん、もっとよく見えるとこに行こう)


「おつきさんが?」

(ひょっとして月の?)


「んだがもな」

(そうかもな・・・)


「かっ」

(おい、お前も来い!)


「わもな」

(俺も?)


「やっとあんべぇ」

(いいから行くぞっ!)


 事の重大さに気が付いているのはアメリカと関係各所の上層部と南警察署・署員全員のみだ。


 南署管轄地域では、生活安全課と交通課が合同で出張って非常線を貼り、大規模な検問が行われていた。


 事件当日午後、函館港に、どこにいたのかアメリカ国籍の多目的巡洋艦が静かに入港し燃料補給を行った。


 そして函館南警察署の受付にキャップをかぶりTシャツにジーンズ姿の白人男性が二人現れた。


「we are from Washington」

(私たちは、ワシントンから来ました)


そう言うと二名の白人は立ち尽くした。


「Welcome, Washington, please wait a moment.」

(ようこそ、いらっしゃいました・ワシントン、少々お待ちください。)


緊急に受付で対応したのは宮田ミキであった。


内線を使用して

「署長、ワシントンの方2名がいらっしゃいました」と言うと


「了解です、では二人を署長室まで、あなたが案内してください」


「了解いたしました」

ワシントンと名乗る二名は身分証明の提示はなく、ミキも身分証明証の提示は求めなかった。

例の黒い服の遺体を回収に来た工作員なのは明白だった。


ミキは二人を案内して廊下を歩いていると白人の一人が

「you're so cute but are you single?」と聞いてきて

(君は大変キュートだが独身か)


イケメン外人の質問に

ミキは面食らってしまい、作り笑顔をするのが精一杯だった。


 署長室では、銀色のアタッシュケースが有線ネットワークに繋がれ

ワシントンを名告なのる二名の身元確認準備がされていた。


 やがて謎の遺体、引渡しは無事に済み自衛隊の出動も南署愚連隊の出動もなく

 

 あっさりと通常の勤務に皆、戻った。


一凜署長は、疲れてサプリメントを胃袋に水で流し込むと署内の仮眠室で眠りに就いた。

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