第2話 私に取ってのゲーム

「それじゃあ、こんな糞みたいな世の中とおさらばしますか。来世に期待するしかないな」


 そう言って僕は、首を釣って死んだ。


 二年生が始まる前。新しい出会いと別れのある季節に死ぬ。それもまたいいじゃないか、なんてそう思いながら。


 何故、僕が自殺なんてしようと思ったのかと言えば決定打になったのは痴漢冤罪だった。決定打になったのがそれってだけで他にも噓告白で僕の純情を踏みにじったあの糞ギャルとか、入学して、初めに隣になった僕の事を嫌そうな目で見て裏で苛めを先導していたクラスの性格最悪マドンナとか、僕より優秀なことを見せつけてゴミのように扱う糞妹とか。その他諸々あるけれどね。


 まぁとにかく決定打になったのは、痴漢冤罪。


 電車の中で痴漢されそうになっている同級生を助けようと手を伸ばしたら逆に僕が痴漢をしようとしていると疑われることになった。警察に何を言っても、僕が醜いからか取り合ってもらえなかった。


 こんな体に成りたくてなったわけじゃない。双子の妹と同じ量のご飯を出されているのにも関わらずブクブク太っていく体。どうしてこんなことに。


 親にも拘らず、僕と双子の妹を比べ続け差別し続けた親は痴漢冤罪を訴えても「お前がやったんだろう。しっかり反省しろ。どれだけ迷惑をかけるんだ。出来損ないが」とこんなことを言われた。まぁ、もうあいつらには期待してないから何でもいいんだけれど。


 僕はそんなわけで人生に絶望して命を絶つわけなのです。

 

 それじゃあ、バイバイ。今世の僕。来世は穏やかに幸せに、何事もない人生を歩みたいです。


 そうして僕は首を釣った。







 だが、どういうことだろう。


 目が覚めるとまっさらな空間にいるではないか。それに目の前には恐ろしいほどまでに美人な人?がいるじゃないか。頭になんか変な幾何学的な輪っかが浮かんでいるけれど。


「は、初めまして。あ、あの。ここはどこですか?」

「初めまして。私はそうですね..........私はあなたが生きていた世界の神様みたいなものです」


 おいおい、まじか。僕たちの世界の神様ってこんなにきれいだったんだ。


「それで、どうして僕はここにいるのでしょうか?」


 もしかしてこれって..........異世界転生とか!?


「私はあなたの人生を一通り見ていましたが、あまりにも報われなくて胸を痛めました」

 

 そう言った女神はたわわに実った胸に手を当てる。


 この流れって、本当に異世界転生なのではないか?それもチート付きのハーレムライフを送れそうな展開。でもなぁ、僕はチートとかどうでもいいから、穏やかな暮らしをしたい。若干女性恐怖症だし。


「なので、私はあなたの望みを一つだけ叶えてあげたいとそう思ったのです」


 やっと僕のも運が回ってきた。あの女神さまは僕にとって幸運の女神さまだ。


「そ、それじゃあ!!」


 と僕が望みを言おうとしたが彼女は


「ですが、望みを叶える前に一つだけしてもらわなければいけないのです」

「一体それは..........?」

「あなたは前世で何も成していないのです。神様の掟のようなものがあり、何かを成していなければその者を次の世に送り出してはならないと決まっていて。例えばですが、結婚して子を作ることや、何か作り出すこと。社会の一部になり懸命に働くことなど」


 まじかよ。じゃあ、僕の望みは叶えて貰えないってこと?


「ですが、先ほども言ったように私は大変あなたの人生に胸を痛めました。ですので、チャンスを与えようと思うのです」

「本当ですか!!」

「えぇ。それは、白石桃花、赤坂花林、上町零。この三人を一年間以内に、あなたを好きにさせるというものです」


 その三人の名前が出て思わず、顔を顰める。


 僕を散々にした三人だったから。


「それは...........僕にはとても難しいものです」

「えぇ、ですからあなたには『リセット』という能力を授けます。これを使い何度でも挑戦してください」


 その後に、女神さまから能力の概要と使い方、そして期限を言われた。リセットという能力はどうやら、セーブをしてその場からスタートできるものではなく、最初から戻ってやり直しできるという能力みたいだ。


「それでは、ご武運を」

「頑張りますので、僕の望みを叶えてください。お願いします」

「分かりました。気を付けてくださいね」

「はい、ありがとうございます。感謝します、女神様」


 微笑んでいる女神さまに頭を下げて、僕のRTAは始まった。



 ***********


「………あなたって本当に性格最悪な糞女神ですね」

「何を言ってるんですか」

「別にあんな掟なんてないでしょうに。彼ほどの善人であれば次の世に送り出して今よりもずっと幸福な人生を歩ませることが決まっているはずなのに。ほんと、最悪の女神です」

「うるさいですねぇ、別に彼がいいと言っているのだからいいでしょう」


 女神は何もない空間から顔をひょっこりと覗かせた短髪の女神にうざったそうに視線を送る。


「それに彼の人生も元々は、幸せなものだっただろうに。あんな太りやすい体、双子の妹よりもどれも一段階落ちるスペック、それに太れば太る程険悪感が増す仕様にしちゃってさ。本当に、君みたいな最悪の女神に目を付けられたあの子がかわいそうで仕方がないよ」

「私だってこんなことしたくてしたわけじゃありません」

「ほんとぉ?」

 

 疑惑の目を向ける短髪の女神に「はい」と頷き、こう返す。


「私たちには寿命なんてものないのですから、これほど長生きしていれば暇つぶしが必要じゃないですか。だから、ちょっとした私の遊びに付き合ってもらってるだけです♪それに痩せれば痩痩せる程魅力が上がる仕様にしたので悪い事ばかりじゃないでしょう?」

「..........ほんっと、ろくでもないね。太る仕様と痩せにくい仕様を付けたしたらそんなのほとんど意味ないでしょう。普通に生活していればあんな体に成ってしまうのは必然なのに」


 心底軽蔑した視線を送るが、そんなこと歯牙にもかけない様子で女神は頬杖をついて先ほど転生していった男を見る。


「うるさいですね。さっさと何処かへといきなさい。この博愛主義者が」

「黙ってよ、性格最悪糞女神。さっさと滅びろ。それと彼を解放しろ」

「それは無理です。やっと面白くなって来たんですから。ほら、人間どもがよく娯楽でゲームで遊んでいるじゃないですか。あれですよ、あれ。これは私ににとってのゲームなんです。あの人間がどこまで頑張れるのか。前世であれほど酷い事をされた女達と接っし、どうやって彼女たちを堕とすのか。どこまで非常になれるのか。感情を殺せるのか。ほら、楽しそうでしょう?」

「……滅びろ、糞女神」


 そう言って、短髪の女神はまた亜空間に消えて行った。


「はてさて、これから彼はどうするんですかね。クリアできるのか、永遠にとらわれてしまうのか。それとも諦めるのか。とっても楽しみです」


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