第59話 発破

 テロリストを全滅させたニャン吉たち。もはやこの船に用済みと甲板へ上がった。


 船はすでに関門海峡を抜けていた。潮風がブワッと顔に吹き付けてくる。より詳しくいうと、血まみれでやや赤黒い顔にである。


 ニャン吉は頭の上にキメラを乗せている。ニャン吉の耳を両手で掴んで首の所に肩車のように乗っている。

『ところで、お前なんて名前なんや?』

『名前?』

 つぶらな瞳をニャン吉の頭に向けて、無邪気に聞いたキメラ。

『じゃあ、俺が名前つけちゃる。……とかどうじゃ?』

『うーん』


『それがいやなんじゃったら、とかとか……嫌なんか?』

『うーん』


『……まさか、とかいうなよ』


『ん?』

『ゆとりでいい』


『……お前なんでそれ知っとんや』

『なんか、寝ている時、聞こえてきた』


『ホンマにええんか!? 世間じゃ「これだからゆとりは」とか言われとるんで!? 現に化け猫ニャン吉とかいう、いかれた物語を書く作家もそれで肩身狭い思いを――』

『ゆとりでいいもん』


 キメラの名前はゆとりで決まった。ニャン吉の名字をとって、中村ゆとりと名乗ることにした。


『……円周率は3.14で計算せえよ』

『あ、それ知ってる。マスコミの馬鹿が流行らせたんでしょ?』


 ちなみに化け猫ニャン吉はゆとり教育が始まった時、ちょうど小学校の卒業シーズンだったためほぼ3とはほぼ無縁であった。にも関わらず、ゆとりの権化の如き扱いに今も腹を据えかねているという噂である。

「学力の低下がなんぼのもんじゃ!」などと、霞ヶ関ビルの方向へ向かって文句を言っている。


 それはともかく、寅太郎たちはなにやら船にバラマキ始めた。それは、黒い粉である。


『なんしよんや』

『ニャン吉君。爆破するで』


 寅太郎が何をせんとするか一瞬で察したニャン吉。船室からも火薬の匂いがプンプン漂ってくるため、発火すると船は吹き飛ぶだろう。


『ゆとり! 枯葉! 逃げるで!』

『そうせえ。じゃあ諸君、狂いたまえ!』

 寅太郎の合図とともに動物たちは一斉に船の端に走りだした。そして、海に飛び込んだ。


 仲間が全員離脱したのを見届けた鷹の伊賀が、空から火炎瓶を投下した。


 ゆとり教育が始まった頃、世間では成人式が荒れていた。そんな成人式のノリで投下した火炎瓶が、黒色火薬に火をつけた。


 轟音響かせ大爆発するテロリストの船。

『船上が炎上しとるの』

『パパ、うまいこというね』

 海の中から顔だけ出して眺めるニャン吉と、ゆとりであった。


『次回「宮島との連絡」』

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