第57話 バイオ

 獣たちの青春はテロ組織の中枢まで達した。1番奥の部屋では、幾つも巨大なガラスカプセルが置かれていた。


 そこは、怪しい部屋だった。少なくとも、ニャン吉たち獣ですらゾッとするほどの気味の悪い部屋である。真っ白な蛍光灯で照らされる鉄筋の壁、天井、床はことごとく暗めの紫色をしていた。その上、ガラスカプセルのガラスが反射して照らされ余計に気味悪い。


 階段を降りて、左右に5個ずつ並べられたガラスカプセル。1番手前の左右2つには、大量のフグがカプセル内で浮かんでいる。非常に悪趣味な水族館だ。


 奥のカプセルにはそれぞれ、何かの目玉が浮いていたり、皮だけとなった何かが一反木綿のように液体中をヒラヒラ浮かんでいた。最初それが何か分からなかったニャン吉たちであったが、ガラスカプセルの土台となっている鉄の管に「人間」と書いてあった。


『……悪趣味の極みじゃの』

 さすがのニャン吉もこれには嫌悪する。


 ガラスカプセルの置かれた部屋の奥から青い明かりが漏れている。その部屋から何やら声が聞こえてきた。


 シューと音を立てるガラスカプセルの鉄の管の間を通り抜けて、半開きである鋼鉄の扉の奥をニャン吉たちは覗いた。


 扉の奥には迷彩服の髭面で顔がよく見えない軍人風の男と、アフロヘアーに特攻服を模したのであろう龍の刺繍の入った白衣を着た男がいた。


「それで、このキメラを街に放って、どうするんだ?」

 軍人風の男の低い声が、アフロに続きを求めている。アフロは鼻のピアスを親指と人差指で摘んで弄りながら言った。

「違う違う! このキメラはまだまだ。まずはこの船で瀬戸内海にウイルスを撒くんだって言ったろうが!」

 アフロは手にウイルスとマジックで書かれたガラス管を見せて笑った。


「このアンチブレラ社のテー・ウイルスをな」

「……そのウイルスを撒いてから?」


「その前に大事なことがある。まず厳島神社へ参拝だ」

「なるほど、瀬戸内海の守り神に賄賂を贈るのか。めちゃくちゃ合理的な判断だ。それから?」


「弥山の山頂から、優しいそよ風にこのウイルスを乗せてばら撒くんだ」

「優しさが成否を分けるんだな」


「その通り。そして、島民をゾン・ビーフに変えたら」

「ちょっと待て、ゾン・ビーフってなんだ?」


「だから、牛の最終形態だよ! みんな最後はあんなんなるだろ!」

「ほほう」


「そこから、再びこの船に乗って、次に水道局を目指す」

「マンホールからこんにちは……だな」


「そして、水道水の貯水タンクにフグ毒をたっぷりと流し込む」

「なんか、かわいい八つ当たり」


「最後は、兵庫と大阪へ俺らが長年かけて開発したキメラを放つ」

「キメラからキを除けばメラになる。燃えるぜ」


「瀬戸内海を緑色じゃないとか言った例のヤツにひと泡ふかしてやるのだ」

「ははは、泡は1度吹いたらひと泡じゃすまんだろう。いくつかブクブクとバブル」


「フフフ、いよいよ人間兵器を試す時がきた。テロリストに国境はない。テロリストこそ全てを超えて団結できる……ってのは皮肉なもんだな」

「ごめん、もう1度初めから説明して」


 アフロは呆れた顔をして黙った。


『……こりゃホンマにヤバい』

『じゃから言うたじゃろうニャン吉君』

 ニャン吉たちは顔を見合わせた。


『次回「キメラ現る」』

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