第56話 連載一周年・噛みついて2〜獣たちの青春〜
テロリストの乗る小型貨物船を襲う寅太郎たちとニャン吉たち。船の内部につながる黒塗りの扉へ前足をかける。
『じゃあ、入るで』
扉に前足をかけた寅太郎。その横から勢いをつけて走ってきた狼の槍杉餓狼が体当たりで扉を破った。
『じゃあお前が最初から開けえや!』
思わず口走るニャン吉。
扉の中は薄暗く、赤いランプが天井と壁についていた。漂ってくるタバコの煙、薄暗いカジノを思わせる。
奥の方に人1人通れそうな階段があり、ニャン吉たちはそこを忍び足で下りていく。動物が忍び足を使った時、人は全くその気配に気づかない。
地下1階は30畳ほどの長方形の部屋となっており、武装した兵士が約10名ほどいた。そこかしこに木箱が置かれており、そのどれからも火薬の匂いがした。
兵士は迷彩服を着用して迷彩のヘルメットを被っていた。英語をしゃべっている男は袖を捲っていて、たくましい上腕三頭筋の辺りに「目糞鼻糞」と漢字の刺青をしていた。おそらく、刺青を入れる時、漢字の意味を間違えたのだろう。
彼らは動物たちが入ってきたことに気付いていないようだ。
それぞれがスーッとテロリストの側まで近寄ると、寅太郎の合図とともに一斉に思い思いの攻撃を開始した。様々な言語の悲鳴が船内に轟いた。
特に被害が酷かったのは、ニャン吉が噛みついた連中である。頑丈な軍服をその鋭い牙で突き破り、服をいとも簡単に裂く。
いよいよ噛み慣れてくると、一撃で痺れるツボを噛みつくことができるようになってきた。10秒もあれば人は全身が麻痺して動けなくなる。
ニャン吉は実に活き活きとしていた。嬉しそうに目を見開いて、まるで恐竜のように噛みついては肉を裂き、吹き出した鮮血でその口を真っ赤に染める。
もちろん、全員真っ赤に染まった。
『こりゃやめれんの! 楽しゅうなって血祭りフェスティバルじゃ!』
ニャン吉もいよいよハイになってきた。後々、閻魔大王はこの件を善事とするか悪事とするか判断に迷った。それほどニャン吉の心根は腐っていたからだ。
それから、どんどん下の階に下りていき、テロリストの血で我が身を真っ赤に染めていく。夕日に照らされたような見た目の動物たち。
夕日に照らされ(たように敵の返り血で真っ赤に染まった全身)、夕日(の元となる血)へ向かってまっすぐに走るさまは、まさに青春(という名の畜生道)真っ只中。
黄昏(勢いが衰える方の意味。テロリストの士気が一気に落ちたこと)の優しい明かり(とは似ても似つかない裏カジノのような赤く薄暗いランプ)に包まれ、青春(という名の畜生道)を謳歌(止めどなく発される獣たちの奇声)するのだ。
やがて、1番下の階へたどり着いた。そこには、巨大なガラスカプセルが置かれていた。
『次回「バイオ」』
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