第55話 荒らせ甲板
テロリストの乗る小型貨物船の進路をジャンク船で遮り、豪快にぶつけた。ジャンク船からテロリストの船に飛び移る動物たち。もはや、後には引けない。
小型貨物船がジャンク船の横腹に突き刺さり、激しく木の軋む音が響く。そして、バギバギと音を立ててジャンク船はバラバラになってしまった。
船が衝突する直前、ニャン吉たちは全員テロリストの貨物船へと飛び移っていた。突然のできごとに混乱するテロ組織。
『寅太郎、こっからどうするんや!』
真っ黒に塗装された船体と甲板の上を走りながら次の出方を尋ねるニャン吉。
『まずは、甲板の上におる連中をしとめるんじゃ。まさか、動物の仕業じゃ思わんじゃろうし』
『分かった』
そして、バラバラになって別れる動物たち。ニャン吉と枯葉は、寅太郎についていく。
船上は地獄と化した。高杉晋作きどりの狼である餓狼が嬉しそうにテロリストの腕に噛みついていく。さらに、久坂玄瑞きどりの鷹である伊賀壱牙が相手の目を突いていく。
無数の動物たちが、思い思いの得物を用いて人間を襲うさまは、地球と動物を支配する人間どもへ復讐をしているように見えた。
もちろん、彼らは人間嫌いではないし、それどころか環境破壊を繰り返すことに対してもわずかばかりしか根に持っていない。普段も皆で拾ってきた石油ストーブに火を灯し、石油っていいねと言うくらいだ。
甲板が次第に血に染まってきだした。様々な言語の悲鳴が飛ぶ中、やはり日本語が多いのも聴き逃がせない。
寅太郎とともに船内を目指すニャン吉は最初、さすがにやり過ぎなのではと言っていたが、今はノリノリでテロリストのアキレス腱に噛みついて動けなくしている。
『こんな荒いんは俺にゃ向いとらんけどのう』
『ニャン吉君。君はそんなことない。実に活き活きと噛みついちょる』
テロリストの血で真っ赤に染まった口で言い訳されても説得力がないニャン吉。その上、目が刀傷のように細く釣り上がり下三白眼になっている。眉根に暗い影を落として、口も裂けんばかりに上げて笑顔のニャン吉。邪王猫な笑いがその顔にくっきりと浮かび上がっていた。
やがて、船内に入る扉の前に着いた。その頃には、船上のテロリストの大半は海に落ちるか、甲板で痙攣しているかのどちらかであった。
扉の前に立つニャン吉と枯葉、そして、寅太郎と餓狼と伊賀。彼らは、魔の巣窟へと足を踏み入れる。
『次回「噛みついて2」』
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