第54話 ジャンク船
下関へと入ろうとしている小型貨物船を某国の工作員の船であると断じるトラ猫の寅太郎とその門下生。皆で海辺へ走っていく。
青い海に打ち寄せるのは日本海の荒い波。寅太郎たちの後についていくニャン吉とワニの枯葉。
波打ち際まで来ると皆立ち止まった。ニャン吉はこれからどうするのか尋ねた。
『ちょい、こっからどうするんや?』
『心配無用じゃ』
寅太郎が門下生の鷹であり久坂玄瑞かぶれの伊賀になにやら指示をすると、伊賀はどこかへ飛んでいった。
『……寅太郎、あの伊賀って鷹に頼みたいことがあるんじゃが』
『それなら僕らを手伝ってくれ』
『分かった。手伝っちゃるけえ厳島まで伝令頼むわ』
『彼ならお安い御用じゃっていうと思う……来たか』
海に向かって右側……つまり、遥かな日本海に望む側の岩陰から何かがやって来る。激しく波打ち、海に大きな影を落とす。やがてその姿が明らかになった。
『な……なんやあれ!?』
『ニャン吉、ありゃジャンク船じゃ!』
それは、中国宋の時代に日宋貿易を平清盛がしていた頃、盛んに造られたという木造船である。船の先端に伊賀が留まっている。
ジャンク船は縄梯子を垂らして来た。海にザブンと入った寅太郎は振り返りニャン吉と枯葉に尋ねた。
『あれに乗ってあの船に乗り込むんじゃ。君らは泳げるか?』
『余裕じゃ。その気になりゃ上海まで泳げるで俺は』
『さすがにワシにゃニャン吉みたいに泳げんが、韓国ぐらいなら泳げそうで』
笑顔で頷く寅太郎。そして、彼らはジャンク船に乗り込んだ。
ジャンク船を操縦するのは、伊藤フミフミという伊藤博文きどりの日本猿である。
船の甲板で集まった動物たち。
『んで、これからどうするんや?』
どうやってテロリストの船に乗り込むのか聞いたニャン吉。彼は、もちろん寅太郎たちが乗り込むための準備をしっかりとしていると思っていた。そう、思っていた。
『ん? そりゃあれじゃ。ペリーに会わせてくれみたいにやるんじゃ』
そう聞いても全く解らない。さらに詳しく教えてくれと頼んだニャン吉。
『そりゃ、つまりあの船の横にこの船をつけて乗り込む言うわけじゃの。でも寅太郎、危のうないかの』
『君は何いいよんじゃ』
船は気付けばテロリストの小型貨物船の進路へ先回りしようとしているようである。
『……え?』
『ぶつけるんじゃ』
ジャンク船は船の進路を塞いでしまった。
『ちょっと!? まさか……』
『じゃあ、ぶつかると同時にあの船に飛び乗るで』
ニャン吉と枯葉には、すでに逃げ道がなかった。
『諸君、狂いたまえ!』
寅太郎の狂いたまえと同時にジャンク船の横腹に小型貨物船の舳先が食い込んでギギギと軋む音を立てていた。
『あああああ! ああ……ああ!』
『枯葉、もう観念せえ!』
そして、テロリストと動物の海上戦が始まった……。
『次回「荒らせ甲板」』
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