第53話 草莽崛起の志士を目指す動物
砂浜で出会った寅太郎。彼は自ら開いた塾へ来いと誘ってきた。
寅太郎が腰を上げるとニャン吉は引き止めた。
『どしたんじゃ。気軽に来りゃええんじゃ』
『うーん、ちょい待ってくれ。仲間がおるんじゃ』
仲間を連れてくると立ち去ったニャン吉を笑顔で見送る寅太郎。
思えばニャン吉は、ここのところ負け続きであった。子猫の頃、鹿三位の部下に砂浜でやられたのが始まり。鹿鬼組を支配する鷹派の2匹にやられ、逃げた先でも極楽動物同盟の黒竹ニャン兵衛にもやられ、強敵との戦いに1度も勝利していないのである。何かを変えねばと考えていた矢先のことである。
ワニの待っている海へ走っていく。ニャン吉は今頃ワニが人目を忍んで海辺で小さくなっていることだろうと多少不憫に思っていた。だが、戻ってみるとまるで忍んではいないのだ。
ワニは海でシンクロナイズドスイミングを踊っているのである。海の中からスーッと足が出てきて、バタつかせる。
しばらくして、嬉しそうに陸へと上がってきた。
『おう、ニャン吉、帰っとったんか』
『なんしよんや、ホンマになんしよんや』
『男のシンクロじゃ。ウォータークロコダイル!』
『……ああ、話がある』
寅太郎の開いた塾の話を掻い摘んで説明した。
『……ちょっと覗いてみようか』
『ほうか、じゃあついてこいや』
寅太郎の待つ浜辺へワニを連れて戻るニャン吉。
浜辺へ戻ると寅太郎は仲間とともに日本海を眺めていた。そこに座っているのは、狼が1匹。鷹が1羽。その他色々である。
『連れてきたで』
『やあ、君がワニ君か。よろしく』
『これはこれは、私は
情報屋として顔が広いに越したことはない。営業のスマイルを浮かべ親しげに話しかける枯葉。
『お前、枯葉って名前じゃったんか』
今初めて聞かされた名前に、ニャン吉は思わず顔をしかめる。
『そうか、僕は吉川寅太郎じゃ。この隣におるんが僕の弟子であり仲間じゃ』
灰色の狼が前に出てきた。眼光鋭く、ニャン吉が今まで出会った誰よりも俊敏そうだ。荒々しくもどこか風流な雰囲気の狼。
『僕の名は
どうやら、彼は高杉晋作気取りらしい。
餓狼の隣に着地したのは鷹である。こちらは落ち着いた様子で、賢そうである。
『僕は
こちらは久坂玄瑞気取りだ。
互いの紹介も終わったところで、寅太郎が手をポンと叩いた。
『さて諸君。今から瀬戸内海に入ろうとしちょるあの船を見てみい』
日本海の沖の方から小型貨物船が瀬戸内海へと航路をとっている。
『あれがどしたんかの?』とニャン吉が聞いてしまった。
『ありゃあ某国の工作員が乗っ取る船でのう。この日の本でテロをしよう思いよるらしいんじゃ』
ニャン吉も枯葉も寅太郎の方を怪訝な顔をして見た。
『なんでそんなん分かるんや』
『うちの弟子が実際に聞いたんじゃと。何でも、自衛隊も米軍も海保もキレイに騙されて、別班も皆殺しにされたらしい』
そんなとんでもないことをいきなり聞かされるとは思ってもいなかったニャン吉。実際この時、亡国の危機に瀕するほどの巨大なテロが瀬戸内海から行われようとしていたのである。
『よし、じゃあ行くか』
『どこへや』
恐る恐る寅太郎へ聞いたニャン吉は聞いて後悔した。
『あの船を沈めちゃる。諸君、狂いたまえ!』
動物たちが狂ったような奇声を上げると、瀬戸内海側へと駆け出した。
『ああああ』
ニャン吉は驚き、それしか言えなかった。
『次回「ジャンク船」』
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