第52話 ここは

 瀬戸内海で迷子になったニャン吉とワニ。


 空を見上げれば、太陽が高い位置にある。

『そろそろ正午頃じゃの……。ワニ、なん食うかの』

『な!? 食欲あるんかお前……』

 未だに全身を縄で縛られているのに、当たり前のようにワニを連れて泳ぐ。


 辺りを見たニャン吉たち。左右に陸が見えるため、そのどちらかに上陸することにしたのだが……。

『お! その前にあっこ行こうで』

『あっこって……なんか渦巻いとらんか』

 ニャン吉が顔を向けた先には、渦潮があるように見えた。渦潮の上に鉄の橋が架かっている。


『天然の洗濯機で体洗おうや』

『馬鹿言うなや、ありゃ渦潮じゃ! 鳴門海峡か関門海峡のどっちかじゃの』

 渦潮の方へと行きたがるニャン吉を説得して、取り敢えず近かった側の陸へと上がった。


 全身を縄で縛られているニャン吉の縄を、噛みちぎってやったワニ。自由の身となったニャン吉は、手頃な石を手に取る。そして、コンクリートの上にワニの鎖を置くと、石を鎖へ振り下ろす。ガキンと甲高い金属音を響かせて鎖を一撃でちぎったニャン吉。

『ちょっ……一発……』

『はよ飯にしようや』


 これからここがどこなのかを調べる必要がある。ワニの姿はあまりにも目立つため、海で待機する。


 しばらく町を探索するニャン吉。道路を通り、橋の辺りまできた。橋の端から海を覗き込んでみると、遥か下に海が見えた。海からは潮風が吹き上げてきて、爽快な気分にしてくれる。


 近くにある食堂からとんこつラーメンの良い匂いが漂ってくる。だからといって、さすがに猫が食券を買うのもどうかと思う。ニャン吉は、よそ見をした人のラーメンを一口で全て口に入れると、バレずにその場を後にする。その人は、少し目を離したらラーメンが残っていないことに驚いた。


 日本海側が見える辺りの海辺を散策するニャン吉。

『海が青いのう』

 浜辺に打ち寄せる波にションベンをする。


 砂浜でフルブリッジをしていると、ニャン吉の隣にトラ猫が座る。トラ猫はニャン吉へ微笑みかける。

『やあ、見事なブリッジじゃねえ』

『ん? どしたんや』


『僕の名は吉川寅太郎じゃ』

『吉田寅次郎松陰みたいな名前じゃの。俺はニャン吉、よろしくの』


『君は何を志す』

『……は?』


 突然の質問にブリッジを止めて寅太郎の顔を見る。寅太郎はニコニコと笑っている。


『志がどしたって?』

『どうじゃ、君も僕らの塾へ来んか?』


 突然の誘いに困惑するニャン吉。寅太郎は前足を舐めだすと顔を洗い出した。さらに、毛繕いを始める。

『日にあたった後、毛を舐めるとビタミンDが取れるんじゃと』

『ほうか……、ところで何で俺らは自分の毛を舐めるようになったんじゃろ』


『それが猫ってもんじゃ』

『猫ねえ』


 この出会いが果たして吉と出るか凶と出るか。だが、この出会いがこれからの戦いを大きく変えていくことは確かであった。


『次回「草莽崛起の志士を目指す動物」』

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