第50話 海の日
ニャン吉の汚い策もことごとくニャン兵衛に見破られた。
『最後に言い残すことはあるか?』
いよいよ死を覚悟せざる負えないと実感するニャン吉。さすがの彼も、顔面蒼白になり全身をわずかに震えさせる。
ニャン兵衛が見守る中、いかにも性悪な顔をしたキジトラ猫2匹がニャン吉とワニを宇品港の海に突き落とそうと前足を出しかけた。ちょうどそのタイミングで待ったの声がかかった。
待ったをかけた茶色一色で丸々と太った猫がニャン兵衛へ提案した。
『ニャン兵衛さあん。このワニさん、海に落とすんは反対でっす』
『お前なんか石破議員みたいなしゃべり方するのう』
猫はなぜか石破議員のことが大好きである。
『それで、なんや』
『はあい。私が思うんじゃが、そのワニまだまだ使える思うんじゃが』
その言葉に希望を見出すワニ。彼は、ニャン吉などと心中するつもりはさらさらない。口の枷をとってもらい、ワニは自らの助命嘆願をする。
『ワシを助けてくれるんなら、なんぼでも協力しちゃるで! その猫の情報もただで売っちゃる!』
突然の裏切りに目をまんまるにするニャン吉。冷静に考えてみると、このワニは敵でも味方でもない。
『おどりゃ! 自分だけ助かろういう気か!』
『フフフ、情報屋にとって1番大事なんは、信用とか金とかじゃないわ。いかに華麗に寝返るかじゃろうが!』
『んふふふ、はあい。いい言葉です』
石破議員に似た丸々とした猫は、ワニの背中に手を当てた。
『……早う鎖を解いてくれや』
『……ワニさん。あなた失格でっす』
その言葉の意味が解せないワニ。
『ワニさん、どうもあんたは肌が汚い。手入れが行き届いとらん。ワニ革失格です』
雷に打たれたような衝撃がワニに走った。自分を助命するどころか切り刻んで売りさばこうという気なのだから。
『ぬおおおお』
『はい』
叫ぶワニへただ『はい』とだけ返事をする石破猫。彼はサッと後ろへ引くと、キジトラがワニを海に突き落とした。水飛沫を上げ、海の底へと沈んでいく。
ニャン兵衛はニャン吉に顔を寄せた。
『最後に言いたいことあるか?』
『これが最後じゃ思うたら大間違いで』
牙を少し口から覗かせてニャン兵衛が微笑む。
『よし! じゃあ山に埋めに行くかこの白猫』
『何でじゃ!』
だが、ニャン兵衛の案を口々に否定する猫たち。
『ニャン兵衛さん、そんな無駄な行動せんでも』
『コスパもタイパも悪すぎじゃ』
『それするんなら道路に放り投げて人の手で処理させた方がええよ』
結局、石破猫以外の強い反対で否決された。
ニャン兵衛は自らニャン吉を海に突き落とす。
『じゃあの』
『山に捨てんかったこと、後悔させちゃるで』
瀬戸の海に2発目の水飛沫が飛んだ。
ニャン兵衛は仲間を連れてどこかへ去っていった。麻酔針で倒れた猫を石破猫が抱えて。猫たちは合言葉を一斉に言った。
『石破総理よ、いつの日か!』
『次回「水地獄」』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます