第47話 王道と覇道と中道と

 鹿三位と別れた初日。ニャン吉は縮景園に居着く動物たちを勢力圏に取り込んだ。さらに、銀行強盗を血祭りに上げたとあって、ニャン吉の悪に箔が付く。


 日も暮れて夜空に月が煌々と輝いている。縮景園の草地でゴロンと横になってニャン吉と動物たちは雑談をした。

『今日はぶりおもろかったでニャン吉』

『ほうか、俺にゃ平凡な日常じゃったがの』


『じゃが、銀行強盗をぶっ殺したんは中々見ものじゃったで』

『……殺しちゃおらんで。少し痛めつけただけじゃ』


『いや、ありゃ痛みで歯食いしばっとったで。手がブルブル震えよったし』

『ほう』


『それより、人質にも噛みつくとは思わんかったは。やることが狂っとるわ』

『……それで』


『その上、警官に噛みつくのは予想できんかったわ。ホンマの悪じゃ。……司法がなんぼのもんじゃ!』

『話変えてええかの』


『おう、なんじゃ』

 ニャン吉は起き上がり、数匹の動物たちの顔を見ながらここへ来た目的を話しだした。


『俺は今、宮島の鹿鬼組と極楽動物同盟を潰してやりたいんじゃ』

 その場にいた動物たちが驚き立ち上がった。


『まあ、落ち着けや。こいつら潰しちゃりたいんじゃが、仲間が必要でのう』

『……潰してどうするんや』


『まあ、誰も心配せんと暮らせる楽園をつくるってことじゃ』

 ニャン吉は自分で言ってハッとした。元々の目的は自分にとって都合の悪い鹿を押さえつけることであった。今回仲間を集うのも、全国制覇の覇業を達成するための徴兵のようなものである。だが、その先に視ていたのは理想郷であった。


 縮景園の動物は、相次ぐ災害で避難してきた者も多い。にもかかわらず、動物同士が縄張りを主張し合い、激しく争う戦国時代は続いている。


 災害の多い世の中で住処を失ったのは人間だけではない。動物もまた流転の日々を過ごしているのだ。


『お前を信じてええんじゃの』

『もちろんじゃ』


『ほんなら明日、市内中の動物に声かけちゃるわ』

『頼むわ』


 その夜は、ニャン吉が盗んできたビールで乾杯した。


 王道、それは理想主義であり人徳。

 覇道、それは現実主義であり力。

 厳しい現実を前に理想は儚い幻のようものである。しかし、現実に屈服するならばいかに力を持とうが、ただ世の流れに追随するのみである。


 理想を持って何が悪い。理想こそが遥かなる目的地ではないか。現実に立ち向かって地に足をつけ前進をするならば、もはや綺麗事とは呼べまい。


 理想を抱いて現実へ挑む者。ニャン吉は今まさに中道という難事中の難事へと挑もうとしているのだ。


 ビールをグイッといった動物たち。皆、ビールの炭酸の強さにむせ返り、鼻からも口からも吹き出した。それも現実である。


『次回「膨れ上がる勢力」』

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