第46話 噛みついて
デパートで魚屋の魚をほじくってから放置して、魚屋自らの手で魚を捨てさせる。その魚を回収してニャン吉たちは、縮景園へと戻っていく。
昼時になると、動物たちが焚き火を用意して魚を焼き出した。焼き上がると皆で貪り食いながら、ニャン吉たちは談笑する。
『われは見事じゃったで』
『じゃろう』
『ホンマにやることがクズじゃ』
『……おう』
『相手に自ら捨てさす、いう発想がいやらしすぎるんじゃ』
『……はよ食べえや』
『誰からも相手にされん野良集団の俺らでも、ここまで心根を腐らすんは骨が折れ――』
『ええけえ黙って食えや!』
久しぶりの鮮魚にご機嫌の動物たち。
腹も膨れたところで、ニャン吉たちは散歩に出かける。先程の本通り商店街がある紙屋町を練り歩く。
普段は日陰者の野良たちも、ニャン吉といると妙な心強さを覚えて堂々と町を闊歩する。さすがに人目につきすぎるため、互いに少し離れて歩くことにした。
紙屋町にある広島銀行の本店で、なにやら騒然としている。パトカーが数台止まり警官が何かを言っている。
ニャン吉が興味本位で銀行を覗くと、中でナイフを持った2人組の連中が行員を脅して金を要求していた。顔に包帯をぐるぐる巻きにして、迷彩服で全身を固めている。銀行強盗だ。
ナイフを女の行員の喉元へ突き付けて脅しにかかっている。
「おい! はよう金出せや!」
「は……はい! 領収書はいらんですか?」
「うーん、ちょっと欲しいかな」
「じゃあ、上様でよろしいでしょうか」
領収書を欲しがる強盗の頭を叩いて説教する仲間。
「領収書なんか発行すなや!」
「でも兄貴、いっつも何かの時は領収切っとけって」
「ふざけんな! ああ、領収より俺と縁を切ってくれよ」
「もう! そんな意地悪言わんといてや」
喧嘩をする2人を人質の中から出てきた男が蹴り飛ばす。そいつは顔を覆う黒い目出し帽を被っていて、懐から銃を取り出した。つまり、別の強盗である。
「おい! 金を出せ」
「領収はどうしま――」
「そんなもんいらんわ!」
その強盗は見せしめとして最初の強盗2人組の心臓に一発ずつ弾丸をぶち込んだ。2人の強盗は絶命した。
本格派の強盗が猛威を振るう中、裏口から飄々と入って来るニャン吉。彼は、忍び足で強盗に近寄ると、後ろから飛びついて黒マスクに爪を立てる。
「なんや!? 前が見えん!?」
黒いマスクをズラして視界を奪った。そして、銃を持つ左手首にガブリとニャン吉は噛みついた。
強盗の悲痛な叫びが銀行の外にまで轟いた。ニャン吉に噛みつかれた手首からは大量の血が滴り落ちる。すぐに手の感覚は麻痺し、銃がスルリと手から落ちる。
強盗が怯んだと同時に警官が中へ突入した。すると、ニャン吉は警官にも人質にも噛みついて銀行の床を鮮血で染めていく。そして、大人数が病院送りになった。
ニャン吉はどさくさに紛れて対鹿鬼組、対極楽動物同盟の模擬噛みつきをしたかったのだ。
この日、広島市では血液型がO型の血が著しく不足したのである。それを聞いたA型のニャン吉は、O型の人に悪いことしたなと僅かに反省するのであった。
その日、O型の血が不足していると聞いて、飼い主の巴御前が献血したのは偶然である。
『次回「王道と覇道と中道と」』
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