第43話 情報屋

 呉の廃工場へと入るニャン吉と鹿三位。それと、シカッピー。


 事務室の戸を開けて中に入ると、事務用の机の上にワニが1頭いた。眼光鋭く、緑色の硬い背中をS字カーブさせている。


 ワニを乗せた机の側に、事務用の椅子が据えられており、そこに2匹の狸が座っていた。


 ワニが手の平を上にして狸に差し出す。すると狸は背中に背負った風呂敷から生肉を取り出してワニの前に置いた。


『牛肉と豚肉それぞれ200gあるけえ、俺らの山におる野犬の情報くれや』

『ええじゃろう。その野犬の名前は「微々樽門太びびたるもんた」じゃ。ヤツは数年前に1日脱走したオスの猟犬とメスの狼との子で、自称・狼男じゃ』


『ヤツを追っ払うにゃどうすりゃええんや』

『ヤツは大きな音が大嫌いなんじゃ。特に爆竹の破裂音がの』


『俺らも気絶しそうじゃ……。他の弱点はないんか』

 ワニは口を閉ざしたまま黙りこくる。再び手の平を上にして差し出した。狸は、パックに入った鶏肉を300g取り出して、机の上に置いた。


『あいつぁ餓鬼の頃に、「山の奥にゃヒバゴンが出る」言うて恐らされとっての』

『ほうか、そりゃええ』

 ワニの情報に満足して帰ろうとする2匹の狸であったが……。ワニはまたしても手の平を上にして差し出した。


 顔をしかめてワニの手の平を見る狸たち。

『まだ肉がほしいんか!?』

 ワニはフッと鼻で笑って言った。

『分からんヤツじゃのう。こりゃハイタッチじゃろうが』

『紛らわしいのう! 顔の横に手出せや!』

『ワニにその姿勢はたいぎいわ』

 狸とワニはハイタッチをした。


 部屋を出ていく狸2匹。ニャン吉たちとすれ違いざまに狸は『われ! なん見よんじゃ! しごうしちゃるで!』と威嚇してきて、自分の声に驚き気絶した。邪魔な狸をシカッピーが外へ放り投げる。


 事務室へと入ると、情報屋のワニから事務用の椅子に座るように勧められる。ニャン吉、鹿三位は椅子に座り、シカッピーは扉の所に立つとそのまま佇んでいる。


 ワニは鹿三位の顔を見ると親しげに話しかけてきた。

『おう、鹿三位か』

『久しぶりじゃの』


『今日は何の情報が欲しいんや?』

『極楽動物同盟の全情報じゃ』


 顔をしかめるワニ。

『……なんでそんなん要るんや?』

『シカッピー!』


 シカッピーが出てきて、先程から背中に乗せていた風呂敷を机に置いた。それを広げると、中から大きな生肉の塊が出てきた。

『ほう! こりゃすごい量のもみじじゃの。5kgはくだらんのう』

『そういうことじゃ。まだ外にえっとあるで』


 興味本位でニャン吉は鹿三位に何の肉なのか聞いた。だが、返事は返ってこない。

『何の肉かぐらい教えてくれてもええじゃろうに』

『……お前の知らんヤツじゃけえ気にすんな』


『……知らんヤツ……って』

『もみじじゃ、もみじ』


 面白そうな話を聞いて、話に入ってきたシカッピー。

『ニャン吉、ボスに逆らって処刑された連中がおっての――』

『……もうええわ』


『そんなこというなや。俺ら鹿鬼自慢の巨大冷凍庫で保管して――』

『分かったけえ……』


 嬉しそうに話すシカッピー。彼のフルネームは、「サイコ・ロ・シカッピー」である。


『次回「極楽動物同盟」』

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