第42話 船の町・呉へ
呉の
呉市は非常に坂が多い町である。場所によっては裏路地が意外と複雑であり、目的地へ着くまでグルグルと回ることもある。
呉は造船業が盛んであり、戦時中は日本を代表する軍港であった。戦艦大和が建造されたのもこの呉である。平和の町広島が最も栄えた軍事都市だったのも皮肉なものである。
呉には有名な商船学校もあり、4年になると世界一周旅行するのである。工業高校も有名である。
錆びた鉄、金属の軋む音、焦げ臭い匂い……まさに工業都市へとニャン吉たちは上陸する。
『ここでなんするんや』
『情報屋じゃ』
鹿三位は呉にいるという情報屋から極楽動物同盟の情報を買うことを最優先する。
黙って鹿三位の後をついていく。坂は急勾配のものもあり、電柱が斜めについているんじゃないかと錯覚する時もある。細い道やジメジメした水路のある裏道などを通って、やがて小さな町工場の廃工場へと着いた。
『よし、こっからは私とニャン吉と……シカッピーの3匹で行ってくる』
『お前シカッピーって名前じゃったんか』
『へい、らっしゃい』
廃工場の錆びついた扉を開けて中に入る。今は使用されていない金属加工のための施設であった。地面に置かれた加工途中の板金を観て、悪巧みを練っていそうな顔をするニャン吉。
奥の事務室の扉が開いている。シカッピーが扉へ入る前に2匹を止めて言った。
『なんか、ホラーゲームみたいじゃの』
『……』
『……』
ニャン吉も鹿三位も返事をしない。
『ほら、あれじゃ。例の、バイオ・ワザート。女の幽霊が和室で手招きしとるのに近眼過ぎてよう見えんかったり。カラオケで歌っとる時に幽霊の声が入り出したら、急に主人公と友達が幽霊の声をかき消すように大声で狂ったように歌いだしたり』
『……』
『……』
『特にありゃ傑作じゃったの』
その内容は、ゲームの中に出てくる呪いの人形とじいさんのやりとりだ。具体的にはこうだ。
「お前を呪い殺す」
「あー?」
おじいさんはよく聴こえないようである。そこで人形は血の涙をボタボタこぼす。
「殺す」
「わしゃ耳が遠くてのう、なんじゃって?」
耳の遠いいおじいさんは耳に手を当てて人形の声を拾おうとする。人形は髪を伸ばしてきた。
「呪い殺す」
「あー? オーデコロンじゃ?」
何を言っても耳に入らないおじいさんへ怒り心頭の人形。
「じじい殺す」
「誰がじじい殺すじゃボケ!」
おじいさんは都合の良い所だけ聴こえたようで、人形の頭を叩いてから、人形の口に自分の入れ歯を無理矢理詰める。
『いやー、ありゃ最高じゃった。説明文も縦読みで「すべてわざとだ、わらいなさい」ってあって――』
『シカッピー、その話今じゃないといけんか?』
『鹿三位、もうええよ。俺らだけで行こうや。シカッピーの肺活量は並じゃないけえ……いつまでも喋りよるわ』
『次回「情報屋」』
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