第40話 まじか
神社の裏手には数頭の鹿がいた。ニャン吉が鹿の後についていくと、その後ろで味噌汁が小便を漏らしながらも堂々と闊歩する。
『お前ら鹿三位の仲間じゃろ?』
『おう、鹿三位さんに聞いとるで。ニャン吉』
それから、鹿三位が海に突き落とされたことをニャン吉は聞かされた。
『やっぱりの』
『んじゃけぇ、こうなったらニャン吉に従え言われとる』
話の最中も決して警戒を怠らない鹿たち。その姿勢を見て、ニャン吉は油断を戒めることを学んだ。
『ここじゃ目立つけぇ』
『どっかええところあるんか?』
『市内を横切るんは目立つけぇ海を使う』
『ほうか』
鹿たちの案内で海路を行くことにした。
厳島のある廿日市市は広島市内と隣接している。だが、彼らの言うのは広島市内といっても旧市内のことである。現在の市内8区とは別物で、基本的に町の中央の4区をさす、いわゆる広島用語である。
ちなみに、廿日市市に隣接する広島の区は
地御前から少し歩くと木材港がある。その辺りまで来ると、船が数艘用意されていた。それに乗って宇品港へと出発した。
広島湾は弓なりに湾曲しており、海に沿って市電が走る。宮島から海に沿って行くと、広島市内に入り、やがて6つの川(昔は7つ)が流れる旧市内へと出る。
旧市内はいくつもの巨大な三角州の上にあり6つの川に隔てられている。三角州同士を互いに行き来するために橋が架かっており、それが町の特徴となっている。
市内を海に沿って行くと、やがて宇品港へ行き着く。
ニャン吉たちの船は宇品港に着いた。岸へ上がったニャン吉たち。コンクリートの船着き場に1頭の鹿が立っているのに気付いた。その目の傷、象牙のような角。それは、どこからどうみても鹿三位であった。
『鹿三位か!』
ニャン吉たちは驚いて鹿に駆け寄る。だが、鹿は困惑している。
『鹿三位さん、わしらです』
『……そりゃ私の名かの……』
部下たちの顔を忘れたようである。話を聞くと、記憶がないらしい。
『……とにかく無事でよかったわ。記憶は……ゆっくり思い出しゃええけえ後は任せとけ』
ニャン吉がそう言っている間、部下たちは鹿三位へ粉紅葉の吸引をさせた。彼は全く抵抗すること無く吸引すると、みるみるハイになって例の『フワッフー!』という声を出して空に叫んだ。
『心配かけたのう』
『鹿三位さん!』
どうにも釈然としないニャン吉は上目遣いで鹿たちを見る。すると鹿三位がニャン吉へ歩み寄る。
『記憶喪失の特効薬にもなるんじゃ、この粉紅葉は』
『嘘じゃろ!? そりゃ……特許にはよ出願せえ!』
『次回「標的変更」』
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