第39話 レッツゴー地御前

 出発したニャン吉たちは、厳島の森を抜けて地御前を目指す。


 薄暗い森の中を文化会の猿が道案内をしてくれる。その甲斐もあってか、鹿に見付かることもなく森を抜けた。そこからは瀬戸の海が見えた。

 対岸には広島の地御前が見える。


『……どして鹿がおらんかったんじゃろ』

 鹿の襲撃に遭うとばかり思っていた味噌汁。彼は拍子抜けしてボソッとそう言った。すると、待ってましたと言わんばかりに笑顔でニャン吉が答える。


『そりゃあの、今頃弥山じゃ無数の爆竹が一定の間隔でパンパン鳴りよるけえじゃ。それだけじゃのうて白い猫のヌイグルミ乗せた樟脳舟が――』

『もうええわ。味噌汁大満足じゃ』


 森の中にあるのは、木の枝や木の葉を幾重にも重ねて隠していた鹿の木造の小舟。それをニャン吉たちは皆で海へと運んだ。そして、船に乗り込んだニャン吉、味噌汁、チバリンであった。


 穏やかな船に乗っていると、吐き気を催す味噌汁。

『こりゃ、吐きそうじゃ』

『酔ったんか?』


『そうじゃの……、おい! この船、水が漏りよるで!』

 顔面蒼白の味噌汁が震える前足で船底を指す。板の1枚に猫の肉球1つ分の穴が空いていた。それを見たニャン吉は平然と穴の上から予備の板を被せた。

『よう見とけよ』

 板を押すと、穴の空いていた部分がボコンと引っ込み、予備の板がそこにぴったりとはまった。


『こりゃどういう仕組みなんや……』と驚く味噌汁。

『鹿が言うとったんじゃ。穴を開けられても、上から押しゃあへっこむんじゃと。そこに他のもん詰めりゃええんよ』


『よう分からんのう』

 詰め替えられた板をシゲシゲと見るチバリン。


 地御前まで半ばの当たりに来ると、潮の流れが変化して目的地から逸れ始める。慌てる味噌汁が海にションベンを漏らしてしまった。


『大丈夫じゃ、これにゃエンジンを積んどるけえの』と言うと後ろの方の木の塊を取り除いた。すると中からエンジンが出てきた。

『小型船舶じゃ』

 犬たちはつくづく用意のいい鹿であると思った。


 地御前まで着くと、早速船に藻を被せて隠した。

『これが鹿の隠蔽術その1なんじゃと』

『……もうニャン吉に任せるわ』

『わしはなんも聞きとうない』

 地御前へ着いたニャン吉は早速、地御前神社へと急ぐ。


 神社に着いたら、どこからともなく声が聞こえた。

『えびす講、言うたら?』

 それにニャン吉が答える。

『暴走族が出る』


 すると、神社の裏手から1頭の鹿が現れた。

『鹿三位の紹介じゃ』

『分かっとる』

 鹿とニャン吉は親しげに話しながら、神社の裏手へ移動した。


『次回「まじか」』

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