第36話 待てども待てども

 空き家に上がりこみ避難をするニャン吉、味噌汁、チバリンと文化会。予め待ち合わせしていた鹿三位は待てども待てども現れない。


 日が暮れて約束の時間をとうに過ぎた。暗い部屋で目だけを光らせる獣たち。

『ニャン吉、鹿三位はどうじゃろうの』

 心細げに尋ねる味噌汁。

『……やられたんじゃ思うで』

 鋭い目をしてニャン吉はそう言った。


 獣たちは愕然とした。頼みの綱であった鹿三位がやられたと聞いて力なくその場に座り込む。

『でも……まだ……やられたわけじゃ』

 震える声で尋ねる味噌汁へ首を横に振るニャン吉。

『約束の時間を大幅に過ぎとる。もし、そうなったらそういうことじゃってあいつと打ち合わせしたじゃろう』

 空き家だというのにションベンを漏らす味噌汁。口をガタガタいわせて鼻水を垂らす。


『わしらは、あいつらとやらんにゃいけんのんじゃの』

 さすがのチバリンも恐怖に身がすくむ。

『……俺らだけでやらにゃあの』


 沈黙の時間が流れる。時々外で物音がする度に味噌汁が『鹿三位か!』と見に行く。だが、それはたいてい風か虫か味噌汁の漏らした音であった。


 ニャン吉は急に立ち上がると、2階へ上がっていった。全く足音を立てないで階段を上がる技術は忍びの如し。気になって味噌汁とチバリンが後からついてくる。


 2階は物が雑然と並べられており、月明かりに照らされたニャン吉の顔はどこか満足気だ。

『大分貯まってきたけえ、戦利品を整理せんとの』

 2階には盗んできた様々な文化遺産が丁寧に並べてあった。巻物、刀、綴箱、面、焼き物など様々な遺産が集められていた。


 金持ちや貴族が嬉しそうにコレクションを眺めるように、ニャン吉は手袋をして1つ1つ丁寧に奥の部屋へ置いていく。


 好奇心に誘われて部屋の奥を覗き込む味噌汁とチバリン。そこを見た時に2匹はゾクッとした。なおかつ、初めてニャン吉が落ち着いている理由が分かった。


 壁には厳島及び周辺の本土の地図が貼られていた。そこには、地御前の地名に丸が記されてあった。

 さらに厳島の拡大地図には、厳島神社のある西側から東側へ抜ける道の詳細な地図があった。地図には、なにやら怪しい印をつけてあり、ニャン吉の性格を考えるとろくな物ではないだろう。


 地図の周りには、鹿の写真が沢山貼られていた。写真には写った鹿の名前と特徴と戦闘になったらどんな手で来るかなどの分析メモ書きもあった。


 床にはバケツにスライムと書かれたメモが貼られていた。中はプルプルのスライムが満たされていた。

 その隣には剣山が迷彩色に染められて並べられていた。


『おい! ここは企業秘密じゃ!』

『ニャン吉、お前……』

 味噌汁は一呼吸おいてこう言った。

『お前は悪魔か!』


『次回「悪魔の兵法」』

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