第35話 空き家

 浜辺で文化会のメンバーはニャン吉と善後策を練る。


 ニャン吉は文化会を伴って、以前から目を付けていた空き家に侵入。中村家からは徒歩3分の家で、赤い屋根の一軒家であった。1階は居間と台所があり、2階には2部屋あった。


 それだけなら何も変わったところがない。なのに、この家は何年も入居者が現れなかった。世間では、幽霊の出る事故物件だと噂されたが、その実態は違っていた。


 なんと、台所が1階に7つもあり、2階には3つもあった。屋根裏にはダメ押しでもう1つ。なのに、風呂無しでトイレは庭に掘った穴である。ダメ押しするダメ物件である。

 庭に建てられた看板には、「ボットンだけどいいかーい」と書かれていた。ただの穴なのに、トイレなどとおこがましいと物件案内「スーマネー」に載っている。


 鍵は予てより時間をかけて破壊してあり、ドアノブを何度かグリグリ捻じると開くように改造してあった。


『取り敢えずこん中入れや』

 図々しくも我が家の如く振る舞うニャン吉に招かれ、中に入る文化会の連中。

 木の板が敷いてあるのみの簡素な造りの居間で休息をとっている時、イタチが急に伊達いたち政宗とつぶやくと、文化会のメンバーは爆笑しだした。チバリンも尻を前足で押さえてカラカラと笑う。

『静かにせえや! 鹿鬼の連中にバレたらどうするんや!』

 ニャン吉が叱ると、皆顔を赤らめ下を向いた。


 2階に上がったニャン吉は、以前より用意していた食料と怪しげな道具を持って降りてきた。文化会の連中は、ニャン吉の用意していた怪しげな道具について極力話題を振らないようにした。


 文化会の連中はやっとありついた食事を夢中になって貪る。キャットフードやキノコなどを獣の如く貪り尽くす。それが、獣って生き物だ。


 食後はサルミアッキを配ったニャン吉。皆口に含むが、ニャン吉だけはそれを口に含むふりをしてスッと自分の毛の中に隠した。用事があると一言残して2階へ上がると、毛の中に隠したサルミアッキを元の包み紙に戻した。


 1階は、サルミアッキの責め苦に涙を流す獣たち。涙目の味噌汁が、この苦しみを和らげるために偽蘭奢待を取りに家へと戻ろうとする。

 それを見たニャン吉は慌てて味噌汁を止めた。

『なんでやニャン吉。ええ匂い嗅がせろや……』

『いや、あんなク……あ。鹿三位にも場所を教えとるけえ時期来るじゃろう。それまで待とうや』

 ニャン吉は『なんであんなクソみたいな悪臭香木取りに行くんや』と言いかけてやめた。あの悪臭香木、偽蘭奢待を味噌汁に勧めたのは他でもない自分だからである。


『次回「待てども待てども」』

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