第34話 断崖絶壁
断崖絶壁に追い詰められた鹿三位。彼は、この危機を如何にして切り抜ける。
『さてえ、どうするんや? 鹿三位。そっから飛び降りるか? それとも俺らに殺されるか?』
『……後はないのう』
さすがの鹿三位もこの窮地を切り抜ける術を知らない。1歩下がると崖から転落するだろう。
今更後悔しても遅いことであるが……もし、敵の動きがもう少し緩やかであれば、ニャン吉と合流できた。
もし、ボス及び幹部たちの凄惨な現場に直行せず先に準備をしていたら……。
もし、前もって敵の動きを察知していれば……。
先手必勝というが、もし完全に先手を取れていた場合はいくらでも手の打ちようがあった。
例えば、悪知恵の化身と後に称されるニャン吉は、こういうときのために大量のスライムを用意していた。ドロドロプルプルのスライムを、いざという時に相手の顔に投げつけるためである。
スライムは今こそ必要な物である。だが、それも今となっては叶わない。戦いはスピードである。
背後から吹いてくる潮風、岩場に押し寄せる穏やかな波の音。1歩下がれば崖から足を滑らせて岩だらけの海へと転落する。
そんな絶望的な状況を打開するために考えを巡らせようとするが……。
『さあ、落いや! 剥製は間に合ってまーす』
『翡翠色・海に
さすがに戦闘経験が豊富なこの2頭は待ってくれない。時を与えれば与えるほど相手に利を与えると知っているからだ。特に背水の陣の覚悟を決めて必死の抵抗をされるのが恐ろしい。
万事休す。崖から突き落とそうと2頭は角で一気に鹿三位を押した。鹿三位は考える間もなく、激しく押されて崖から突き落とされる。背中から翡翠色の海へと突き落とされた。水飛沫を上げ海の中へと沈んでいく。
『どうじゃろうのう、さすがに死んだかのう』
『……殺しの専門家の俺が思うんじゃが、生きとると思うで。その内死ぬ思うがの』
悪趣味コンビである鷹派の2頭は、顔を見合わせ笑った。
――その頃ニャン吉たちは……。
厳島神社の大鳥居が見える浜辺へと集まっていた。
『もう、だめか思うたでニャン吉』
息を切らして砂浜にへたり込む味噌汁。
『ほーよ、このワシがあんな鹿に負けるたあ思わんかったわ』
尻を押さえて鳥居を見詰めるチバリン。
皆口々にニャン吉へと礼を述べる。だが、ニャン吉はそんな皆を叱咤する。
『バカ言うな! これからが本番じゃ! あいつら宮島の動物を徹底的に殲滅しよう思っとるんじゃ!』
徹底的に殲滅するという言葉を聞いて、文化会のメンバーは戦慄した。
『あいつらボスもその娘も全幹部も皆殺しにしとる。もう、互いに後にゃ引けんのんじゃ』
『次回「空き家」』
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