第31話 鹿三位の死闘

 処刑場を襲撃したニャン吉は、厳島文化会のメンバーを伴って山中の森を突き抜ける。


『よう来てくれたニャン吉』

『ホンマに今日に限って家出なんかすんなや!』

『……菊が、菊がああ!』

 動物たちは、疾風の如く駆けていく。


 時を少しさかのぼり、ニャン吉と二手に分かれた鹿三位は――。


 敵の包囲網を突き破り、追っ手を撒こうと必死に山を駆けていた。岩の上を飛び越え、木の枝に引っかからないように頭を下げ、苔で滑る大地をしっかりと踏みしめて逃げていく。


 やがて、追手の姿は無くなった。一先ず安心した鹿三位は、虫歯四姉妹のいた五重塔周辺まで駆けつける。だが……。

『血の跡……』


 大地に点々とする血の跡。その跡は虫歯四姉妹のものだろうと推測すると、残された血痕を辿っていく。やがて、森の中に入って行った。その先にあったのは……。

『……まあ、そうなるじゃろうの』

 虫歯四姉妹の無残な遺体が4つ転がっていた。どの顔も恐怖に歪み、悲劇が起きたことを物語る。


 ここで怯むようなら鹿鬼組の一員とは呼べない。即座に切り替えて、ニャン吉と合流するために厳島神社の鳥居へ向かって歩みを運ぼうとするが……。

『おやあ? こりゃあ鹿三位さんかいのう』

 来た道から現れたのは角々鹿々。両の角に真っ黒いシルクのリボンを結んだ、特徴のある高くてかすれた声。


『ほう? われは1人で、私をしごうするつもりか?』

『フフフフ、お処刑のお時間ですのう』

 鹿々とは反対側、森の奥の暗がりから現れたのは、殺殺殺殺。三叉の角の先を磨製石器で丹念に削って尖らせ、相手を突いて喜ぶ変質者。


 挟み撃ちにされたと気付いた鹿三位は、全身がギョッと硬直した。前門の虎後門の狼ならぬの、前門の剥製職人と後門の殺し屋である。鷹派の2匹に挟まれたのだ。


『おどりゃ、この私をしごうするつもりか!』

 怒号を飛ばし威嚇する鹿三位であった。だが、鷹派の2匹はただ笑うのみ。

 高くてかすれた声で笑う鹿々の顔は、これから鹿三位を剥製にする喜びで満ちていた。

 殺殺の方はというと、ニタリと笑いただ全身を震わせるのみ。上目使いで獲物を見上げる。


『鹿三位ぃ、ちょっとぐらい死んでもええじゃろうが』

 鹿々はかなりの饒舌で、あれこれと無駄話が多かった。以前からその口にうんざりしていた鹿三位。


『あああ、鹿三位。この磨き上げた角でわれの鼻を突きたいのう……』

 反対に寡黙過ぎて何を考えているのか分からないのが殺殺である。たまにしゃべればこの調子。今までの鹿三位は、この気味が悪い鹿と可能な限り距離をおいていた。


『やれるもんならやってみい!』


『次回「いかれたやつら」』

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