第29話 鷹派の刺客

 鷹派2匹に狙われる宮島の動物たち。なのに、よりによって文化会リーダーの味噌汁がプチ家出をしてしまう。


 三浦家には味噌汁がいない。ニャン吉は焦りをつのらせ心当たりのある場所を回った。


 大元公園、厳島神社、チバリンの家、我が家の中村家などを回るが見当たらない。もう、すでに鷹派の連中に捕まっているだろうと諦めかけたその時。

『この臭いは』

 弥山の方から吹き下ろしてきた風の中に、偽蘭奢待の悪臭が混ざっていた。鼻をつくような悪臭は、風向き次第で遠くからでもする。


 弥山からベタつくような悪臭が漂う。心の抵抗がそのまま臭いの壁となり立ち塞がって、足が前に進まない。足もであるが、気も進まない。だが、勇気を出してその臭いを辿る。

『くっさいのう! ホンマにくっさいんじゃーや!』などと愚痴愚痴と愚痴りながら弥山を登っていく。


 森の中を抜け、山肌が剥き出した岩場を駆け抜け、かなりの時間走った。だというのに、まだ目的地に辿り着かない。気付けば厳島神社とは反対の側の海に出ていた。

『この辺なんじゃがの』

 目を閉じ臭いを嗅ぐと確かにこの辺である。対岸に面する崖から下を見下ろすと、キャンプをできそうな砂浜もあった。


 正面には海が広がり、左右には違ったタイプの岩場があった。海に向かって左の岩場は、岩石がせり出して陸地になったような場所。海に向かって右側の岩場は、岩が不規則に並び海から顔を出している。


『ここでキャンプしたいのう』

 思わず和むニャン吉の頬をそよ風が……例の偽蘭奢待の臭いを運んでくれた。鼻を刺すような臭いが近くに味噌汁がいることを教えてくれた。


 ハッとしたニャン吉。それはおそらく海側からしたものだ。おおよその場所が分かったため、崖沿いに浜辺を注視しながら再び臭いを辿りだした。崖の端を落ちないように歩き、時々見える砂浜に目を凝らす。


 そして、とうとうニャン吉は見付けた。


 草を掻き分けて崖を見下ろすと、砂浜にギロチンが用意してあった。血飛沫が何度も附着して鈍色の錆が所々にあるギロチンと、岩を平らに削って造った処刑台。その周囲には数頭の鹿がたむろっていた。


 砂浜には処刑を待つ列があり、その中に見知った顔が何匹もいることに気付いたニャン吉。特に、先頭で両前足をしめ縄で括られるのは味噌汁だ。彼は目を閉じて観念したように大も小も絶えることなく出し続けていた。

『ええか、よう聞けや。この止めどのう溢れ続けとる俺の体の中にあった情熱は、クソであってクソじゃないんじゃ! 悠久の大河の如く、あるいは真っ赤な血潮の如く、誰も止めることができん命の流れなんじゃ』

 かっこよく言ったが、要するに怖くて漏らしているだけである。


 列の中には、尻に菊の花の茎を数十本刺されてダウンするチバリンもいた。


『次回「奇襲」』

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