第27話 本部襲撃後
鹿三位とニャン吉は、急ぎ鹿鬼組の本部を目指す。
木々の生い茂る原生林の中。そこに鹿鬼組の本部もある。彼らがそこへたどり着いた時にはすでに全ての鹿が剥製となっていた。首から上だけになった鹿たちは、木の枝に切断面を突き刺されていた。
『こりゃ……どうなっとんじゃ』
『ニャン吉、ええかよく聞け。戦いはスピードが命じゃ。今朝は生きとったボスも全幹部もこのザマじゃ』
木の枝に刺さる鹿の剥製を凝視し、全身を震わせるニャン吉。さすがの彼も初めての本格的な抗争に心底恐怖を覚えた。
『俺がもっと早う動いとったら……』
『別に気にすんな。こいつら自業自得じゃ。今頃地獄に落ちとるじゃろうて』
この剥製は製作途中とはいえ、ここまでの早業に背筋が寒くなる。
2匹は目を閉じ、黙祷を捧げる。
虚ろな目で剥製を眺めるニャン吉。対して冷然と見るのみの鹿三位。そこに、光と闇、表と裏の社会の根本の違いが現れている。
その時、奥で何かがドサッと落ちる音がした。2匹はビクッと反応しそちらを警戒する。恐る恐るそちらへ歩いていく。その落ちたものを観た時、さすがの鹿三位も愕然として細い足を震わせた。
『便坐様……そんな……嘘じゃろ……』
ボスの娘の便坐の顔を視認した時、ニャン吉は『嘘じゃ! そんな……わけないじゃろ』と非情な現実に頭が追いつかない。
罪深いやくざ者が殺られるのはいい。しかし、なんの罪もない者が蹂躙され、命を奪われるのはさすがの鹿三位にも容認できない。彼は憤怒に燃えた目でニャン吉の目を見た。
『これが負けた者の末路よ……。今の動物社会じゃこんなもんよ。いや、人間同士も戦争ばっかしよる。まさに、畜生道まっしぐらに突き進んどるじゃろう。弱肉強食が世の理じゃいうんなら……』
『……覇道』
少し頷き空を見上げる鹿三位。忌み嫌っていたはずの覇道という言葉に希望の光を見出そうとしている。それは、乱世の狂った世界の価値観に他ならない。
『これから俺がやることが地獄に落ちる業を積むとしても……』
『鹿三位……分かっとる。このままじゃと味噌汁も俺らも殺られるじゃろうし……』
皆まで言わずともその心を察した。2匹は今、同じことを考えている。
『お嬢の仇は打っちゃる』
『しゃ! やっちゃろうや!』
2匹は悪魔の所業を行う角々鹿々と殺殺殺殺を討伐すべく立ち上がった。ここに猫と鹿による共同戦線が組まれた。どの道このままでは奴らの手で宮島の動物は皆殺しにされるだろう。
『座して死を待つより、出て活路を見いださん』とは諸葛孔明の名言である。
『次回「兵は神速を尊ぶ」』
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