第25話 カオスなお見合い〜なんてことだ〜
鹿鬼組のボスの娘、御手洗便坐と虫歯四姉妹のお見合いは混沌を極める。
鹿たちは五重塔の辺りまでやってきた。五重塔は足利義満が創建した禅宗様式の塔であり、反り返りが特徴の紅の塔である。遠くから観ると不死鳥が翼を広げているように見えるだろう。火喰鳥にも見えるが……。
『ふふふ、雅じゃねえ』
便坐がそう言っても誰も渋い顔して応えない。やはり、サルミアッキが効いているのだろう。
そんなカオスを五重塔のてっぺんから観察をしていたニャン吉。彼もさすがに飽きてきた。
『春眠暁を覚えず』と言い訳して家に帰ろうとした刹那、便坐たちの悲鳴が聞こえてきた。
『なにするん! あんたはパパ野郎のあれじゃろうが!』
『うるさい! 静かにせえや!』
屈強な鹿数頭に囲まれた便坐。鹿たちは虫歯四姉妹を角で突き飛ばすと、便坐の腹を角で突いて気絶させた。人目もはばからず白昼堂々とボスの娘を攫っていく。
誘拐現場の一部始終を五重塔のてっぺんから目撃したニャン吉。彼は飛び降りて助けようとしたが……、さすがに五重塔の頂上は高すぎて躊躇してしまう。
『まだ俺は子猫なんじゃ、ここまでせんでもええんじゃ』などと言い訳をするが、要するにニャン吉は高いところから飛ぶのが苦手なのである。塔の最上階からにゃーにゃー叫ぶしかなかった。
――五重塔の反り返りにぶら下がり、1段ずつ塔を降りていくニャン吉。下を見ると恐ろしさのあまり「にゃーにゃー」と声に出してしまう。3段目になってやっと恐ろしくなくなってきた。
『こりゃ高い所から飛ぶ訓練せにゃあいけんの』
そこからは飛び降りた。
便坐を拐われてメソメソと泣く虫歯四姉妹。ニャン吉は虫歯四姉妹には声をかけることなく、鹿三位のいる大元公園へ駆けていく。
『1枚、2枚、3枚……はあ、1枚足りんのう』
手持ち無沙汰の鹿三位。彼は意味もなく紅葉を数えると海に目をやる。例のお見合いのことを考えると反吐が出そうになる。
象牙のような真っ直ぐの角で紅葉を1枚ずつ串刺しにしているところへ、急ぎ駆けてくるニャン吉が目に入る。息を切らしてこちらへやってくるのを不審に思う鹿三位。
『どしたんや、お前ずっとお見合いを見物しよったじゃろう』
『拐われたんじゃ!』
『皿は割っとらん』
『違うわ! 便坐が他の鹿に拐われたんじゃ!』
その知らせを受けて鹿三位は『なに!』と血相変えた。一大事の知らせに力み過ぎて凄まじい量の脱糞をしてしまう。
『次回「側近の鷹派」』
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