第22話 巴御前の日記

 ボスの娘が求めた理想のお見合い相手の虫歯四姉妹。大元公園でニャン吉たちが驚いたその夜。就寝前に巴御前は日記を読み返していた。


『「12月28日」平家が南都焼討をした日。白い猫をひろい飼うことにした。名前はニャン吉。なんか罰当たりな日に来たけど関係ないよね。カレンダーに仏滅って書いてあるけど、地獄行きになるような猫にはならないよね。大丈夫、「地獄は嫌だにゃん」なんて絶対に言わないはず』


『「1月18日」今日は平清盛の誕生日。ニャン吉とお祝いをする。お祝いのために厳島神社の陰でサングラスをかけた黒ずくめの男から蘭奢待を購入。蘭奢待はしゃもじの形をしていて、安芸者あきもん心をくすぐる。でも、蘭奢待は偽物で涙が止まらないほど臭かった。これではおいわいじゃなくておのろいだ。この偽蘭奢待を捨てる時に、あれだけ嫌がっていたニャン吉が手袋をはめてどこかへ持ち出した。本当に猫って分からない』


『「2月7日」今日は一ノ谷の戦いの日。鵯越の逆落としで平家が大敗した日。平重衡は捕まり、敦盛は熊谷に討ち取られる。人間五十年と歌わないで欲しいものだ。そんな日に、ニャン吉は厳島神社の屋根で爪を研いだ。誰にもバレなくてよかった』


『「2月19日」屋島の戦いの日。四国の屋島にて義経の奇襲で安徳天皇の仮内裏は壊滅。那須の与一が扇の的を撃ち落とす名場面あり。そんな日に、ニャン吉はどこからともなく扇面古写経を咥えて帰ってくる。でかしたニャン吉と言いたいところだけど、さすがにこれはまずいかな。扇には「妙法蓮華経提婆達多品第十二」と写経してあり、平安貴族が特に惹かれた竜女の女人成仏の所だ。畜生成仏も説かれているからついつい持って帰ったのかな? 取り敢えず厳島神社の賽銭箱の上に御安置しておこう』


『3月24日は壇ノ浦の戦いの日。そんな日は壇ノ浦の海で磯釣り。源平のゆかりの品は釣れない上に、タコばかり釣れる始末。同じ瀬戸内海でもこの辺の海はあんまり緑じゃないし、下ノ関とかいう下ネタ好きな力士も現れるし……。でもそんな1日が私の宝物。ついでに付け加えると、ニャン吉が毛玉を吐いた。どんなにかわいい愛猫も吐瀉物はホントにくさい』


『「4月1日」とうとう春が来た。エイプリルフール1発目の嘘は、厳島神社の神主に「お前を許さない! この浮気者!」と怒鳴ってみた。エイプリルフールだというのに神主は石頭で冗談も通じない。「これやるけえ、2度と来んな」と大凶の御札を44枚渡された。その日の出勤前、ニャン吉にこの話をすると、爪に血を付けて帰ってきた。夜、願い事をするのを忘れていたため再び厳島神社へ参拝。神主は緊急入院したようで例のバイトの巫女がいた。私は、1ドルが150円台の円安になったことをスマホで確認した後に1セントをお賽銭した。願い事はもちろん「早目に広大の准教授になりたい」と「ニャン吉と発掘調査へ行きたい」だ』


 歴史学者の中村巴。彼女は20代後半で准教授になる。


『次回「カオスなお見合い〜ご趣味は〜」』

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