第20話 そんなところが似なくても……

 ボスの娘の便坐は女好きである。その衝撃で頭が真っ白になるニャン吉、鹿三位、味噌汁。さらに話を進めると、糞詰まりで水虫であることも悩みだというのだ。


『……お嬢』

『それから、見た目大事。今から言うけえ当てはまらん奴は連れてくんな』

 聞けば便坐はかなりの面食い。目の離れ具合を1センチ単位で注文つけてくる。


 鹿三位は便坐のわがままな注文を繰り返す。

『まず、脚が自分より細うてみじこうて……』

『できりゃあ大根足にしてえね』


『大根足……それから、首周りの太さはニシキヘビが3周できる程度で……』

『目がやや近うて鼻が真っ赤な奴ね』


『それから……笑うと歯茎から血が出る』

『内出血じゃいけんよ』


 その理解し難い注文の数々に、思わずプッと吹き出した味噌汁。ボスの娘を見て深いため息を吐いたニャン吉。注文を聞けば聞くほど暗澹たる思いになってくる鹿三位。好き放題注文をつけた便坐は、虫歯でガタガタの歯を剥き出しにして笑った。


『じゃあよろしくね』

 便坐は上機嫌で脱糞すると、跳ねるように駆けて弥山へ戻っていった。


 残された3匹は、それぞれの思いを胸にただ沈黙。

『こりゃあ難儀じゃのう』と明るくカラカラと笑うのは味噌汁。白いチワワが歯茎を出して笑うさまは、周囲を不快にさせる。

『ホンマにのう』と戸惑いを隠せないのはニャン吉。子猫でも、便坐の無理難題は理解できた。

『……私があんたになんか迷惑かけたんか。厳島大明神』などと神に文句をつけるのは鹿三位。下を向いて右顔半分が日陰になり、なんともいえない哀愁を漂わす。


 物思いに沈む鹿三位は、急に顔を上げる。彼は例の紅葉粉を取り出して吸引した。

『フワッフー! こんなときゃこれに尽きるのう!』

 明るくなった鹿三位は、『後のことは私に任せてくれえや』と言い残してどこかへ行った。


『どうするつもりじゃろうの』

『こりゃあ見物じゃのニャン吉』

 期待したのも束の間。便坐の要望に応えるのは望み薄だ。肩を落としたニャン吉は、上機嫌でカラカラと笑う味噌汁と一緒に家路に就いた。


 ニャン吉が家に帰ると、巴御前がなにやら騒いでいた。

「あ、帰ったんニャン吉」

『ほうじゃ』


「今から『そごう』に行ってくるけえ留守番よろしくね」

『まかしとけ』

 急ぎ玄関から出ていった巴御前。


 ニャン吉は、ちゃぶ台の上に置かれたチラシに丸が付けてあることに気付いた。チラシには『大妖怪展・一反木綿のハンカチ全員プレゼント』と描かれていた。

 さらに、もう1つ大きな丸を付けてあるチラシがあった。それは、『サルミアッキ大量売りつくし処分セール』であった。


『サルミアッキってなんや』

 ニャン吉は気にもしなかったが、サルミアッキは世界一まずい飴で知られた物である。


『次回「エウレカ」』

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