第19話 ボスの娘は……

 大元公園で別れたニャン吉と鹿三位と味噌汁。その日、早速鹿三位はニャン吉を突き飛ばした鹿を折檻する。


 ちょうど干潮の時刻。潮が引いて陸になった厳島神社の鳥居の下。鹿三位はニャン吉に狼藉を働いた鹿の上に馬乗りになり、その顔を前足で何度も殴りつけた。

「なんでや! なんでや!」

「カタギに手え出すなって言ったじゃろうが!」

 鹿の顔が腫れ上がる程殴った。その後は、砂浜を掘ってその鹿の首から下を埋めた。そして、再び潮が満ちて来る。


「鹿三位さん! 助けてくださいや!」

「せっかく鳥居の下におるんじゃけえ、神頼みしてみいや」

 ここで、鹿三位の悪い癖が出てきた。自他ともに厳しすぎる性格と、サディスティックな面が出てきたのだ。


「ゴボゴボ」

「なんて言っとんか聞こえんのう」

 水に沈む鹿の口へ耳を寄せる鹿三位。どこから持ってきたのか、ホースを水に沈む鹿に咥えさせる。ホースを咥えた鹿は、辛うじてそこから空気を取り入れる。

「それがありゃあ死にゃあせんわ。猿を見張りにやっちゃるけえ安心せえ」

「スー、スー」

 鹿三位は月に向って笑いながら去っていった。


 それを遠くから見ていたニャン吉と味噌汁。

「鹿三位のやつ、ホンマにやばいんじゃないか」

「でもニャン吉。もう後にゃ引けんわ」

 その夜は、3匹の猿が鹿を一晩中見張っていた。


 翌日。鹿三位は約束通り埋めた鹿を掘り起こしてやった。一晩海に沈められた鹿は、海水で毛が毛羽立ち、目も充血していた。

「反省せえよ」

「もうしませせせせ」


 それから鹿三位は、弥山へ登って行った。


 その日の夕方、ニャン吉が入院中であるお隣の老夫婦の家の庭でブレイクダンスを踊っていた。その時、鹿三位の使いという鹿がニャン吉へ声をかけてきた。

「鹿三位さんが大元公園でお待ちしとりますわ」

「分かったわ」


 大元公園へ向かったニャン吉。そこには、味噌汁も呼ばれていたようで2匹は鉢合わせた。

「おう、集まってくれたの」

 鹿三位が鹿を1匹伴ってこちらへやってくる。鹿三位はニャン吉たちへ連れてきた鹿を紹介する。

「こちらがボスのお嬢さんの、便坐様じゃ」

「どうも、便坐です」

 鹿三位の思惑通り、縁談をまとめる役目を仰せつかった。後は適当にその辺の鹿を脅して言うことをきかせれば終わりだとほくそ笑んだニャン吉であったが……。


「……じゃあ、あたし好みの女の子を連れてきんさい」

「はあ?」

 ニャン吉、味噌汁、鹿三位の3人は言葉の意味を解せない。

「……便坐様。素敵な男性の間違いじゃないですかの」

「いいや、女の方がええ。どうやってもその相手が見つからんかったんよね」

 呆然とする3匹。開いた口が塞がらないせいで3匹は馬鹿みたいな顔になった……。縁談がまとまらないわけだと謎が解けた3匹は、遠くを流れる雲を見詰める。


 ボスの娘はボスによく似て女好きであった。


『次回「そんなところが似なくても」』

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