第17話 紅葉の和解

 雄弁を振るう味噌汁。気付けば鹿三位は心動かされていた。


『……なるほどの、ニャン吉のおかげで安心して文化会結成できたってことじゃの』

『まあ、そういうことじゃ』

 自分の雄弁に得意になった味噌汁。いい気になった彼は、ニャン吉を導いているのは自分であるかのように言い出した。だが、鹿三位に見抜かれての射抜くような目で睨まれる。調子に乗り過ぎた味噌汁は再び漏らした。


『まあ、ニャン吉が猫王にゃおうを結成したんは分かったわ』

『ほうか』

 一時はどうなることやらと思ったニャン吉。鹿三位の態度がみるみる和らぐ。


 鹿三位は、近くの木へ歩いて行く。象牙のような角を木に突き立てた。すると、木の幹は観音開きのように開いた。中は空洞になっており棚のような造りになっている。その棚にぎっしりと並べられた金魚鉢を取り出す。


 金魚鉢を首から紐でぶら下げた鹿三位は戻ってくると2匹へ金魚鉢の中身を勧める。

『取り敢えず……一服するか?』


 中には真っ赤な粉が満たされていた。それは、すりつぶした紅葉であり、竹をくり抜いた吸引器とセットで勧める。愛想笑いを浮かべ、2匹同時に『やめとくわ』と断った。


 微笑む鹿三位は、竹筒を咥えて器用に金魚鉢へ突っ込む。まるで、コップに注がれたジュースと、備え付けられたストローである。鹿三位は竹筒に鼻を突っ込むと、フンと紅葉の粉を吸引した。

『まるで麻薬じゃ』と小声でニャン吉がささやくと味噌汁は『ほんまに』と返事をする。


 吸引を終えると彼は、何やらニタニタ笑い出した。さらに、狂ったように笑い始めた。その上、天へ向って『フワッフー! これじゃけえやめれんのんじゃあああ!』とハイになって青空へ叫んだ。よだれを巻き散らかして悶る。真っ直ぐ立っていた四足も、ハの字に開いて胴が地面に着きそうだ。


 傍から見ていた2匹は、全身に悪寒が走った。これは、本物の薬物だと。

『こりゃホンマにやばいやつじゃ』

『ニャン吉、洒落にならんで。逃げようや』

 目の座った鹿三位は、ヘラヘラ笑いながら2匹の逃げ道に回り込む。


『うははは、宴もたけなわじゃいうのにかえっちゃいけんじゃろうが』

 先程鹿たちと一戦交えた時とは比較にならないほどの恐怖を覚えたニャン吉。


『じゃがの……家に帰らんにゃ』と恐る恐る言ったニャン吉は上目使いをする。

『……俺もはよ帰らんにゃ、もみじ饅頭が腐るんじゃ』と恐怖でわけのわからないことを口走る味噌汁。

『まあ待てや……大分ハイじゃないなってきたわ』と徐々に素面へと戻る鹿三位。

 彼が言うには、先程吸引した粉紅葉は安物であるため長持ちしないらしい。上物は、天国が視えるとかなんとか……。


『紅葉は怖いの……』と小声で言ったニャン吉であった。


『次回「密約」』

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