第16話 覇道を行くクズ野郎
呑気に尻尾を振りながら短い足をバタつかせ走って来る白いチワワ。味噌汁は早速ニャン吉の本名をばらした。
『ニャン吉、やっぱり俺も来たわ』と嬉しそうに大きな声で呼んでくる。
意外な犬の登場に首を傾げる鹿三位。彼は、ニャン吉へ『知り合いか?』と尋ねる。しかし、ニャン吉は海の方を見詰め、『潮風が寒いの』と誤魔化す。
味噌汁は親しげにニャン吉へ駆け寄ると、尻尾を振ってワンと鳴いた。もはや誤魔化しは効かない。
『やっと来たか味噌汁』
『おう、待たせたのう。おっ、鹿三位も一緒か』
『お前は、味噌汁か』
先程からそわそわと落ち着きがなく、挙動不審なニャン吉。その違和感から何かを悟った鹿三位。
『ニャン吉とかいったのう』
『んー、当たらずとも遠からずじゃ』
『お前、覇道宣言した猫じゃの』
『ハドウ? おお波動はすごいの。特に光の波動は粒子との二面性が――』
『とぼけんな、お前は私を利用して鹿鬼組を我が物にするつもりじゃったろ』
『……塵も積もればゴミとなる』
背を向けるニャン吉を見下ろし質問攻めをする鹿三位。返答に窮するニャン吉は、もはやこれまでかと観念した。
爪を出して、まずその細い足を動かなくしてやろうと企むニャン吉。鹿三位も、象牙のような角で自らを謀ろうとしてきた白猫へ突き立てる準備をする。
愚鈍な味噌汁でも、さすがに2匹が一触即発の事態なのに感づいた。小型犬は恐れるとブルブル震える。震える味噌汁は、いつもその上糞尿も垂れ流す。だが、今回は違った。全ての糞を尻から吐き出すと、勇気を持って鹿三位へ伝えた。
『違うんじゃ! ニャン吉は王道の組織に作り変えてくれたんじゃ』
猜疑に満ちた目でチラリと見た鹿三位。
『厳島狂犬会は、文化活動に専念する非武装組織の厳島文化会に変わったんじゃ! それをニャン吉が示してくれたんじゃ』
狂犬会の目的は、鹿鬼組に対する抑止力。それが、非武装組織の文化会に変わったとなると、完全に鹿鬼組への対抗手段がないことを意味する。武力のみに焦点を当てると、狂犬会は元々ハッタリ組織だったのだ。
驚く鹿三位は、ニャン吉へ向けた角を引っ込めた。そして、顔を味噌汁へ向ける。
『つまり……非武装組織にニャン吉が変えたんか?』
『ほうじゃ! その分、ニャン吉が
ニャン吉は、文化会を守るなどとは1度も言ったことはない。意外にも味噌汁は雄弁であり、心からの言葉に鹿三位も心が動いた。
『次回「紅葉の和解」』
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