第15話 鹿三位との交渉

 罠にかかった鹿三位の体についた砂……という名の「摩擦レス君」を払ってやる。それは、朝撒いた摩擦殺しの鹿殺しトラップ。ゆえに、ばれないように払って証拠隠滅。


『悪いのう、ニルヴァーニャ』

『おう、元々ただあんたに会いたかっただけじゃけえの』

 満面の笑みを浮かべ鹿三位の目を真っ直ぐに、その濁った目で見詰めるニャン吉。妖しい金の目がキラリと光る。


『お前は何の用なんじゃ』

『そりゃあ……ここじゃあの』

 ニャン吉は他の鹿たちを見て、人払いならぬの鹿払いをして欲しそうに言った。


 鹿三位は鹿払いをした。鹿たちは渋々大地の上を滑りながら退散した。


『ニルヴァーニャ、お前なんの用や』

『実は……』

 ニャン吉はいかに切り出すかを考えた。相手の性格を観てなにを話すかを決めるつもりで来たため、具体的な内容は決めていなかった。


 見た所、鹿三位は責任感が強そうで、信念を持ち、落ち着きがあった。反面、早とちりで少々独り善がりな面もありそうだ。所謂、風紀員のような性格である。


 そんな鹿が、父親の代からとはいえ裏社会の鹿鬼組しかきぐみに所属しているのは心苦しいはず。父親をボスに剥製にされたとなるとよけいにそうだろう。信義に生きる身としてボスを裏切れないのだろうか……とニャン吉は観た。


『……厳島狂犬会が解散させられたことは知っとるの』

『ああ、なんでも「覇道を行くクズ野郎」に蹂躪されたと聞く』

 苦々し気に「覇道を行くクズ野郎」と言ったのを聞いた覇道のクズ野郎ニャン吉は冷や汗をかいた。狂犬会の話はやめた方がよさそうだと判断し別の話題に切り替える。


『お前が売りよる粉紅葉はどんな作用があるんや?』

『別に、ただの嗜好品じゃ』


『美味いんか?』

『別に』


『ええ角じゃのう』

『象牙みたいで嫌じゃ』


『お前、部下に慕われとるのう』

『部下は逆さから読むと株じゃ』


 話下手とはどんなに努力しても話が続かない。


『ニルヴァーニャ、お前はなんで私に会いに来たんや』

『そりゃあ……まあ』

 反対に質問され口ごもる。


『私以外にも他の幹部がおるじゃろうが』

『……鹿三位が1番の人格者じゃあ聞いて』


 鹿三位はニャン吉に顔を寄せ、つぶらな瞳を見開いた。

『なんが目的や』

『そりゃあ……あれよ……』

 どうしようか狼狽えている所へ、火に油を注ぐような白いチワワが走って来る。

『おーい! ニャン吉』とチワワはこっちを呼びながら駆けてくる。それは、もちろん味噌汁である。本名もあっさりバレた。


 もし、覇道を行くクズであることがバレたらまずいとニャン吉は体を硬直させて味噌汁とは反対を向いた。


『次回「覇道を行くクズ野郎」』

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