第12話 大元公園
味噌汁に鹿三位の情報を聞いてから時が経った。ニャン吉は、すぐにでも鹿三位が幅を利かせる大元公園へ行きたかった。しかし、味噌汁が中々案内してくれない。
このチワワはこの間、御主人に「散歩に行くで」と騙されて予防接種に連れて行かれた。注射を前に震える味噌汁は、動物病院で大も小も漏らしてしまった。おまけに、その姿を近所のメス犬に見られて嘲笑われてしまった。
御主人に怒り、メス犬に傷つけられ、面子丸つぶれの傷心のまま家から1歩も出なかったのだ。とうとう1か月と数日の時が過ぎて3月になった……。
それまでも再三案内をするように味噌汁の元を訪ねたニャン吉。しかし、味噌汁はこたつから出ようともしない。いつもなら節分の日になると、元気に年の数だけ鼻に豆を詰めるというのに、今年は尿瓶の広告を悲しそうな目で見詰めるのみ。
ニャン吉はとうとう痺れを切らして、1匹で大元公園へ行くことに決めた。この頃になるとニャン吉の体もかなり大きくなっていた。成猫より少し小さい程度。
『あのチワワめ』
ブツブツ独り言言いながら大元公園を目指すニャン吉。右手には翡翠色の海が煌めいていた。
公園に着くと早速ニャン吉は紅葉を掻き集めた。1箇所に集めた紅葉の山。その上に飛び乗って横になる。
『紅葉のベッドじゃー!』とわざと大声で言った。
何匹かの鹿が口元を歪めて眉根を寄せて睨んでいる。ベンチに痰を吐き出すと、鬼の形相でニャン吉へ近寄ってきた。
『われ誰に断って紅葉集めよんじゃ!』
『場所代寄こせや!』
『おどりゃ! しごうしちゃろうか!』
しごうするとは、広島弁でボコボコにしてやろうかという意味である。
紅葉のベッドで横になったままニャン吉は、首だけ鹿の方へ向けて不敵に笑った。以前なら、鹿の大きさに圧倒されていたが、成長して体が大きくなったせいか気圧されることはない。むしろ、鹿が小さく見えた。
『ご苦労じゃの、馬鹿の片割れ』
ニャン吉の挑発に怒髪天を衝く鹿たち。鹿たちは、頭の角をニャン吉へ向けて威嚇を始めた。
(思ったより大したことないの)
以前は鹿の角が巨大に感じて、鬼の金棒のように見えていた。しかし、今は警官の持つ警棒程度にしか見えなかった。鹿の体も以前は、山のように大きく見えて、遥か頭上からこちらへ影を落とし見下ろしていたように感じた。しかし、今は自分よりやや大きい程度にしか見えない。その細い足に同情すらしてしまいそうである。
ニャン吉はガバッと紅葉のベッドから起き上がると、一瞬で鹿たちの後ろへ回り込んだ。
『なんじゃあ! 消えた……』
『俺はこっちじゃ』
ニャン吉と鹿の戦いが始まった。
『次回「鹿三位現る」』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます