第10話 宮島鹿鬼組

 外をうろつきながらニャン吉は味噌汁から鹿鬼組についての情報を聞く。

『聞きたいことがあるんじゃろ?』

『実は、鹿の連中について教えてほしいんじゃ』

 味噌汁は苦々し気に宮島鹿鬼組について語りだした。


『奴らは、この島を縄張りにしとる鹿の組織で、ボスは三叉の角を持っとる鹿じゃ。ボスの名は御手洗みたらい辺台へんたい

『そのボス、変態なんか?』


『……知らんわそんなん。じゃが、裏切った仲間を剥製にして喜んどるとか聞いたことあるがの』

『そっち系の変態か』


『それから、誰か仲間がやられたらやり返す決まりがあるらしいで』

『こいつらも集団的自衛権使うんか』


『そりゃ違うわ。自衛権なら俺らも気にせんのんじゃが……いわゆる復讐法ってやつでのう』

『目には目を歯には歯をか?』


『いや、肩が当たったら目と歯を、なんじゃ……。そもそもあいつら無制限に暴力ふるうけえ島の皆びびっとんじゃ』

『それで狂犬会作ったんか』


『ほうよ、俺らも最初は平和のグループ作って一切の暴力を禁じとったんじゃがの……。向こうがお構いなしにやってくるけえ、俺らも狂犬会で団結して集団的自衛権行使するいうて牽制しとったんよ』

『なるほどのう』


 恐ろしい鹿の組織を思い、2匹は弥山を見上げる。


 山を見ていると何かをひらめいたニャン吉。彼は試しに聞いてみる。

『スパイとか送り込めんかの』

『スパイ? ええ!』

 まさかの一言に味噌汁も困惑する。


『ほうよ、鹿も一枚岩じゃないじゃろうが。いや、むしろ一枚岩じゃったら脆いはずじゃ。孫子の兵法にも載っとるで、常山の蛇っての』

『常山の蛇って……、そうよ! そういやあおったわ適任者が』


『誰じゃ! それは』

『ボスの側近で父親が剥製にされた奴がおるんよ』


 味噌汁は思い出した弾みで小便を漏らす。どうせ漏らすならと左足を上げて電信柱にぶっかけた。中々話が進まないのでニャン吉は苛立って咳払いをする。


『おお、悪い悪い。ボスは裏切ったり任務を失敗した奴を剥製にするって言ったじゃろう』

『変態じゃのう』


『側近の1人が任務を失敗して剥製にされたんじゃ。その息子がおっての、名前は鹿三位しかざんみ頼々よりよりじゃ』

『……なんか源三位頼政げんざんみよりまさみたいじゃのう』

 ――源三位頼政とは、平治の乱の折に平家に着いた源氏の武将。長年平家に仕えるフリをして突如裏切り以仁王の挙兵を促した人物。謙った態度の裏に、源氏の魂を隠し、源平合戦のきっかけを作った老将である。


 味噌汁は、鹿三位について知っている限りを語りだした。


『次回「紅葉の売人・鹿三位」』

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