第9話 猫王旗揚げ

 池の畔で新たなる軍団、『猫王にゃおう』の旗揚げを宣言する。背中を引っかかれ気絶するチバリン。怯える元狂犬会の小動物。


『な……ニャン吉、お前』と味噌汁が狼狽える。

『厳島狂犬会なんか解散せい。まるで天下布武みたいじゃろうが』

 ニャン吉は彼らに『厳島文化会』という新たな組織を結成することを提案する。虚勢を張る小動物たちは最初渋っていた。しかし、味噌汁が急に乗り気になってきたので最後は皆、笑顔で承諾する。チバリンも起きてくると、妙にノリノリで厳島文化会の結成に賛同した。


 面白いことに、この厳島文化会はやがて動物たちの心を結びつける王道の組織へとなっていく。しかしそれは後々のことである。


 厳島を武力で統一する覇道の組織『猫王にゃおう』と、厳島から文化を発信する王道の組織『厳島文化会』は、ここにて発足した。覇道を突き進もうとするニャン吉であるが、王道を重視する面もまた持ち合わせていた。


 皆で木の実を食べると、それぞれが家路についた。


 それからニャン吉は、いかにして鹿に勝つかを思案した。

『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』

 まずは、鹿のことについて調べることにした。


 宮島で長きに渡り情報の網を張っているのは、やはり元狂犬会のメンバーだ。その副組長(現厳島文化会の会長)の三浦味噌汁に尋ねるのが早い。ニャン吉は手土産に、偽蘭奢待を持って味噌汁の家を訪ねた。


 三浦家は、お土産屋をやっている。店先に朱色の布を敷いた机を置いて、その上に様々なお土産を並べていた。


 人目を避けながら店の奥に入ると、6畳ほどの畳の部屋に味噌汁を見付けた。彼は、藍色のこたつ布団から顔を覗かせている。さらに、鼻提灯を両の鼻の穴から膨らませ爆睡していた。

『味噌汁、俺じゃ』

『んあ? おお、ニャン吉か』

 こたつから出た味噌汁は、背筋を伸ばして大あくび。こたつの上に置かれたもみじ饅頭をニャン吉へ勧めてくる。

『ほんじゃあいただこうかの』

『ここじゃあ御主人に見つかるけえ外に行こうや』


『そういやあ、これお土産じゃ』

『……そりゃあ例の』

 悪臭の極みとも言える香木の偽蘭奢待を味噌汁へ渡した。偽蘭奢待は米粒サイズで体育館に悪臭を満たせるのだが、小豆サイズの物を渡すところにニャン吉の性格が現れている。味噌汁は大事そうにエサ箱の下に偽蘭奢待を隠した。


 2匹はもみじ饅頭を貪りながら外へ出る。店の外で話をした。

『厳島文化会はどうじゃ?』

『ああ、順調っちゃあ順調じゃが……』


『やっぱり鹿鬼組か』

『……ほうじゃ』


『次回「宮島鹿鬼組」』

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