第8話 本部襲撃

 池を囲って動物たちが談笑している。茂みには、小型犬が数匹。さらに、フェレット、猫、たぬきなど如何にも弱そうな動物たち。


『おう、集まっとるの』

『おう、味噌汁か』

 たぬきが太い尻尾を振って仲間内のあいさつをすませる。


 味噌汁は、狂犬会の皆がそろっていることを確認すると、ニャン吉とチバリンを会員に紹介した。

『こちらが土佐犬の千葉流々之助じゃ。なんでも、俺と同じ坂東平氏の流れをくんどるんじゃ』

『よろしくのう!』

 狂犬会のメンバーはいかにも強そうな土佐犬の入会に盛り上がる。


『こっちがニャン吉じゃ』

『よろしく……』

 白い子猫のニャン吉のあいさつには申し訳程度の歓声を上げる。露骨に態度が違っている。


 それから、集会が始まった。池の近くに平らな岩があり、その岩を囲って会議を始めた。


 初めこそニャン吉は、狂犬会が厳島を支配するもう1つの勢力、宮島鹿鬼組みやじましかきぐみとの抗争の話が出て打倒鹿を期待していた。しかし、それも全て机上の空論で終わり、やがて、ドングリ匂い当てゲームや、厳島を題材にした和歌を練りだした。和歌は大事な文化であるが、今は公家化するべきではないとニャン吉は舌打ちした。


『ふん! くだらんのう!』

 突如チバリンがそう言い放った。

『なんでじゃ! おもろいじゃろうが』

 味噌汁が慌てて言い返す。チバリンの勇ましさに頼もしさを覚えるニャン吉であったが……。 

『ここはこうじゃろうが。古池やナマズ飛びこむ沼の音』

 一同はその短歌に歓声を上げる。誰もが素晴らしいと称える中、ニャン吉は憮然として皆を見詰める。


 暗い顔したニャン吉に気付いた味噌汁が、気を利かせて話を振る。

『おう、ニャン吉もなんか歌ってええんで』

『このチバリンに勝てたらのう』

 何かを決意した顔でニャン吉は、岩の机の上に登った。その無礼な態度に一同は不機嫌になった。


『じゃあ言わせてもらうわ』

 ニャン吉はとんでもない宣言を和歌に託して発表した。

『馬鹿以下の・役にも立たぬ・狂い犬・覇道の邪魔なり・潰してゆかん』

 狂犬会のメンバーはざわめき立つ。


『われ! 餓鬼のクセになに言いよんじゃ!』

『俺は宮島鹿鬼組を潰そう思いよるが……その前にお前らから潰したるわ!』

『おもろいのう! やってみいや!』

 ニャン吉へ飛びかかるチバリン。顔を噛み砕いてやろうとしたが……、目にも留まらぬ速さでニャン吉は避けて後ろへ回り込む。そして、チバリンの背中に立つと、幾筋もの爪痕を刻んでいった。


 背中が血まみれになったチバリンは、その場で倒れた。

『これがホンマの「かぐる」じゃ。手加減してこれなんじゃけえ本気出したら皆殺しじゃ!』

 震え上がる狂犬会。

『狂犬会は解散せえ! 俺が厳島を統一するけえのう! ここで旗揚げじゃ! チーム名は猫王にゃおうとする』

 誰も何も言わなかった。狂犬会はニャン吉にあっさりと解散させられた。


 狂犬会本部を襲撃したのはニャン吉であった。


『次回「猫王旗揚げ」』

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