第7話 弥山の狂犬会
土佐犬に脅され糞尿を漏らす真っ白なチワワの味噌汁。彼は、食糞をするために出したのだと主張する。だが、恐怖で漏らしたのは火を見るより明らかだ……。
大地に湯気を立て威風堂々な糞。その糞を食べようと土佐犬と味噌汁は取り合いになる。
『そりゃ俺のじゃ! 俺が出したんで』
『ワシは腹減っとんじゃ! 誰の糞でもええじゃろうが』
2匹の犬が糞を取り合う。両者前足で糞を押さえて互いに一歩も譲らない。糞を引っ張り合い、口で咥え、顔も体も糞まみれになる。
猫であるニャン吉にとって、この上なくおぞましい光景を目の当たりにする。生まれて初めて逃げ出したいという気持ちになる。
『どうなっとんじゃ……ホンマにどうなっとんじゃ……』などとつぶやき、呆然と立ち尽くす。
結局、出した側の取り分を2、譲り受ける側の取り分を1と言うことで商談は成立した。仲良く糞を口に含んでクチャクチャいわせる犬たち。
『あんたぁ、話してみると悪うないねえ。名はなんていうんや?』
『ワシは、千葉
『よろしくのう、チバリン。俺は三浦味噌汁、今からそこにおる白猫の中村ニャン吉を狂犬会に連れてっちゃろう思いよるんじゃが……あんたも来るか?』
『ええのう。おう、よろしくのう、ニャン吉』
ニャン吉は糞の臭いに顔をしかめながら『よろしく』とあいさつを交わした。
3匹は、街を抜けて弥山へ登っていく。
『ところでチバリン、1つ聞いてもええか』と味噌汁が尋ねた。
『なんじゃ』
『俺は御主人が坂東平氏の三浦なんじゃが、あんたも御主人は坂東平氏の千葉かのう』
『ほうじゃったと思うで』
『道理で豪傑なわけよのう』
『そんなに褒めんなや』
和気あいあいと話をする2匹の後からついてくるニャン吉。彼は『お前らは坂東平氏と血がつながっとらんじゃろうが』と小声でつっこんだ。
弥山の森の中へ入っていく。ゴツゴツした岩の間を通る犬たち。そんな中ニャン吉は、軽やかに岩の上に登ると、岩から岩へと飛び移る。
『さすがは猫じゃのう』とチバリンが褒めるが、ニャン吉は返事をしない。
味噌汁は、急に立ち止まり辺りの木々を丹念に見ていく。
『どうしたんや』とチバリンが声をかける。
『この辺に目印があるんじゃ』と返事を返す。
ある、1本の木を見て『ここじゃ』と指差す味噌汁。彼は、その目印の木から茂みの奥に入っていく。チバリンとニャン吉も後からついていった。そして、茂みを抜けると、動物たちが池の周りで談笑しているのが見えた。そこが、例の本部なのかとニャン吉はしかめっ面で眺めた。
『次回「本部襲撃」』
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