第6話 狂犬会からの誘い
平清盛の誕生日に巴御前が買ってきたしゃもじ型の怪しい香木。その香木からは、この世のものとは思えないほどの悪臭を漂わす。
部屋に充満する便器の香り。
「もう、これじゃあクソの始末と変わらんじゃないね」
『ほんまよ、何が蘭奢待じゃ』
換気をするため窓という窓を全開にする。窓から悪臭が空に立ち上る。それを嗅いだ鳥は地に落ちる。反対に、臭いにおいを好む犬が吸い寄せられるように臭気のする方へやってくる。
小型犬が窓からこちらを覗いてくる。犬は、うっとりとした顔で気軽に話しかけてきた。
『ええ匂いしとるのう』
『誰じゃお前』
話しかけてきたのは、真っ白なチワワであった。
『俺は
『チワワがのう』
『ええ匂い嗅がしてもらった礼に狂犬会のメンバー紹介したるわ』
『……別に……いや! 是非頼むわ』
窓枠から足を下ろした味噌汁は、『ついてこいや』とニャン吉を誘う。ニャン吉も窓から外に飛び出すと、怪しいチワワの後へついていく。
狂犬会とはどのような組織なのか。打倒鹿へ向けて対抗勢力になりうるかもしれないと期待を膨らませるニャン吉。
味噌汁が立ち止まった。ニャン吉もそれに従い立ち止まる。味噌汁はある一軒家へジッと視線を向ける。鉄格子の簡単な門の向こう側には、土佐犬が鎖につながれ犬小屋から出ていた。
『味噌汁、あいつが狂犬会のメンバーなんか?』
味噌汁は冷笑する。
『笑わせんなや、あんなんが狂犬会に入れるわけないじゃろうが』
土佐犬は味噌汁の嘲笑う声に反応して門の所まで迫ってくる。
『そこの餓鬼、ワシのこと笑ったのう』
『ふふふ、鉄格子から出れん身分で何を言うんや』
土佐犬は鼻で鉄格子の門を押すと、キィと金属の擦れる甲高い音を立てて門が開いた。匠に自らの首輪を外して、外へ出てきた。
『ワシが囚われの身たぁ、おもろいのう』
『ふん! 口じゃあ何とでも言えるわ!』
味噌汁はガタガタと震えだして、その場で失禁。それを見て豪快に笑う土佐犬。
『われ、偉そうにしとったが、もう漏らしとるじゃろうが』
『これはのう、漏らしたんじゃのうて……俺の中から情熱が熱水となって溢れ出したんじゃ』
土佐犬は大きな顔を小さな味噌汁の顔に寄せて、「バウ!」と1吠えする。味噌汁は脱糞した。
『ええ匂いさせるのう』
『ちょうど食糞がしとうて自分でやったんじゃ』
弱い犬ほどよく吠えるというが、味噌汁はまさにそれであった。ニャン吉は、期待はずれの狂犬会に早くも見切りをつける準備を始めた。
『次回「弥山の狂犬会」』
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