ゴーレム
「ミスティさん!?ほんとに一回話し合いましょう!?俺たちには何かの誤解があると思うんですよ!」
「うるさい!お前と話すことなどないです!」
なんとか説得を試みるも癇癪を起こしたSランク冒険者の錬金術師を普通の子供と同じように止められるはずもなく、後ろから飛んでくる小瓶が狙いを外れて近くの木に当たるたびに血の気だけが引いていくのを感じた。
小瓶の中に何が入っているのかは全く分からないが小瓶が木に当たり中身が漏れるたび、木々がたちまち火に包まれたり、凍り付いたり、どっしりとしていた幹が小枝ほどに萎むほど枯れてしまったり、と何が起こるか分からないのだもの。
「錬金術師ってなんでもありかよ!」
途中何度か直撃しそうになった小瓶は割らないように優しく手で弾いていなしてきたが、ローブの中から無尽蔵に出てきそうな小瓶を相手にしてたらいつ当たってもおかしくない。多少強引にでもミスティを止めるべくタイミングを伺っていると、不自然に周りに木がない少し開けた場所に出た。
「なんだあれ?」
見るとそこには簡素な小屋が立っていた。ざっくりと木で枠組みが作られ外壁を土で固めているようだが、その土には生い茂った植物が絡み付いており作られてから何年も経っているように見える。しかし、今までも何度かウェスタ大森林には来たことはあるが、こんなものは一度も見たことがなかった。
「ふーっ、ふーっ」
「あ、やべ」
見たこともない小屋を眺めていると、背後から獣のようなミスティの声が聞こえた。小瓶が飛んでくると思いすぐさま振り返って身構えたがミスティは肩で息をしたまま動きを止めた。
「...もう小瓶がなくなったです」
どうやらただの弾切れだったらしい。まだあったら投げてきてたのかという恐怖を覚えるのも束の間、俺の後ろにある小屋を見つけたミスティは、
「いつの間にかこんなところに来てたですか」
と呟いて小屋に近寄っていく。
「おい、その小屋誰のか分からないぞ?」
「誰のも何も、これはわたしが作ったものです」
当たり前のように小屋に入ろうとするミスティを引き止めると、何を言ってるんだという顔で返事をされた。
「え、でもどう考えてもできてから何年も経ってるような感じだけど...」
「錬金術で植物を育ててカモフラージュしてるだけです」
ほんとになんでもありだな錬金術...
ミスティの後に続いて小屋に入ると、見た目と同じく中もまた簡素な作りになっていた。木で作られたベッドらしきものはあるがその上には薬草やら鉱石など錬金術で使うらしき素材が所狭しと置かれておりもはやベッドの本分は果たしておらず、それは机や椅子にも同じことが言えた。
(これ、どこで寝てたんだ?)
何をするための素材なのかとか、そういえば食事はどうしてたんだとか、疑問は絶えずミスティを目線で追っていると彼女は何かを探すようにきょろきょろと部屋を見渡していた。
「何か探してるのか?」
「ゴーレムがないです...」
「ゴーレムっていうと人形のことか?そんなの持ってたんだな」
どうやら幼い少女らしく人形なんて持っているらしく、かわいいところもあるじゃないかと微笑ましく思っているとその考えを見抜いたらしいミスティはこちらを振り返って睨まれた。
「馬鹿にしてるです?ゴーレムって言ったら錬金術で作った
「そ、そうですよねー。ちなみにそのゴーレムのサイズってどのくらいですか?」
「ちょうどお前と同じくらいの大きさです」
そりゃいくら部屋がごちゃついてても無いのがすぐ分かるわけだ。言ってしまえば人が一人消えたのと同じだし。
「それって勝手に無くなるもんなのか?」
「わたしが研究で小屋に籠ってる間にモンスターが襲ってこないよう自動で動くように設定してたからどこかに行ったかもですね」
「ゴーレムってそんなこともできんの?」
「そこらの錬金術師には絶対不可能です。わたしだからそこまで精密な命令を組み込めるだけです」
さらりとそんなことを言ってのけるミスティに改めてSランク冒険者は人間離れした才能の持ち主なんだなと実感した。
「でも、そのゴーレムがいないとなんか不都合があるのか?」
「いや、中に込めた魔力が切れれば勝手に朽ちていくだけだから問題ないです。ただ、ユグドラモドキを探すようにに改造すればまた一からゴーレムを作らなくて済んだだけです」
「なるほどな」
ただでさえモンスターを自動で撃退してくれるのに目的物を探すように改造までできるとは...今日だけで錬金術の有用性を嫌というほど実感したな。
でも錬金術をマスターできる人が限られてるせいであんまり有名な職業ではないのが残念だが。
「まぁ、この小屋が見つかったのならしばらく素材には困らないです。今日は一旦これを持ち帰るですよ」
さっきまでの怒りもいつの間にやら収まっているらしいミスティは小屋に散乱していた素材をローブの中へと拾い上げていく。小瓶を出した時から感じていたが、どうやらあのローブには何かの魔術がかけられているらしく小屋中にあった素材があっという間にローブの中に収納された。
「それも錬金術なのか?」
「これは錬金術で素材を沢山使うって話したら優しいステラがローブに空間魔術をかけてくれた物です。お前はそんなの貰ってないです?」
どうやらローブが気に入っているらしく嬉しそうに自慢された。こちらを見てにやついている顔はおもちゃを自慢する子供にしか見えないが...。
「いいなぁ。俺はそんなの持っていないよ」
「そうですそうです?いいでしょう?もっと褒めてもいいですよ?」
(あ、この子単純だなぁ)
なんとなくミスティの扱い方が分かり始めた頃、もう日も暮れそうな時間になったので街に帰ることを提案し、ミスティがローブについて自慢げに話すのを黙って頷きながら帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます