第36話三人の閨の遊戯


 ユーザリとリピが、寝台の上で口付けを交わす。


 これが二人の初めての接吻で、触れるだけの軽いものだった。少年少女が交わすファーストキスのような清らかさである。服を着ていればの話ではあるが。


 俺たち三人は、リピの部屋にいた。三人で付き合うことを決めてから、数日が経っていた。その間、俺たちは互いに色々なことを試している。


 三人一緒にいて俺とユーザリが嫉妬しあうことはないのか、とか。リピが、俺たち二人を同等に扱えるのかということだった。三人でいることを決めたのならば、誰か一人に負担があってはならない。


 さらに言えば、リピが本当に俺たち二人を求めているのかという疑問を払拭するためでもあった。リピは、俺たちの友情が壊れることを恐れて二人一緒に求めるという手段に出たのではないかという懸念があったのだ。


 こんなことを言い出したのはユーザリで、特に最後にあげた事が原因であったならば色々と考える必要があると俺に相談していた。


 ユーザリの心配は、もはや親が子に対するようなものだ。


 だが、ユーザリは三人でいることでの俺のストレスも心配している。俺とリピを同様に考えているあたり、ユーザリは本当に人が良い。それとも、俺だからこそ心配してくれているのだろうが。


 そう思えば、若干ではあるがこそばゆい。


 こうして、様々な考えが錯綜しながら数日が経った。リピの様子は前と変わらずで、俺とユーザリもあっさりと日常に戻ってしまったのだ。


 告白なんてなかったような時間が流れて、これはもしかしたらリピが変わらない日常を望んでいただけなのかもしれないと俺もユーザリも考え始めていた。


 そんな中で、リピが言い出したんのだ。


「どうか……。御二人が、僕に失望していなければ今夜は一緒に寝ていただけますか?」


 リピは、泣き出しそうになりながら俺たちに訴えた。


 予想外の事態に、俺とユーザリは顔を見合わせていた。この数日間で自分がベッドに呼ばれないのは、俺とユーザリが本心では自分を拒絶しているからだとリピは解釈したらしい。


 俺たちとリピの間には、すれ違いが起きていたのだ。観察の期間をあえてリピには言わなかったのが、裏目に出てしまったらしい。さらに言えば、リピからのアクションを待ち過ぎた俺たちにも問題があった。


 三人で付き合うのならば、俺たちからもリピに秋波を送っても問題はなかったのである。相手のためと言いつつ、出方を伺い続けるのは双方のためにならないのだと学んだ。


 俺とユーザリは互いに苦笑いをし、大きくため息をついた。思えば、このような結果を恐れてリピと夜の関係を持つようになったのだ。


 俺は、友人とリピを共有することに罪の意識や拒否感はなかった。一般的な恋愛とは違うかもしれないが、ユーザリの愛情深さは尊敬の領域に達している。彼とならばリピを共有できると思うし、最悪な場合におちいってもリピだけは幸せにしてくれると思う。


 そういう信頼が、一番の決め手だった。


 ユーザリだって、同じ気持ちであることは何となく分かった。俺の友人は、俺のことを信頼してくれている。それこそ、一番大切なものを共有できると思うぐらいに。


 そんなことがあって、俺たちはベッドの上にいる。


 このような営みはベッドの上でやるという先入観があったので、三人で乗ってしまったのだ。成人男性三人の重みを受けているベッドは、動きたびに「ぎぃぎぃ」と苦しげな音を立てた。


 今後は、何かの対策を立てる必要があるだろう。そうしなければ、ベッドの寿命が縮んでしまうことになりそうだ。


 初めての口付けをゆっくりと終わらせたリピとユーザリは、しばし熱っぽく互いを見つめる。二人とも服は脱ぎ去っており、産まれたままの姿になっていた。


 ユーザリの裸は初めてみたが、良くも悪くも平均的な体つきをしていた。接客は立ち仕事であるから、下半身には筋肉がついている。上半身に関しては、可もなく不可もなくという程度に脂肪が乗っていた。


 業種が同じなので、俺の身体つきもユーザリと似たり寄ったりだ。


 リピの肉体だけが、すらりとした余計の脂肪がついていないものだった。


 毎日忙しく動いているから、肉体の維持が出来ているのだろうか。それとも、痩身であったと言われるエルフの血統のせいなのか。なんにせよ、羨ましいことである。


 ユーザリが、リピの身体のラインを確かめるように撫でる。白い皮膚を行き来するユーザリの手が皮膚の感触を楽しみ、わき腹や肩といった場所をくすぐっていた。その感触が気持ち良いらしく、目を細くユーザリの手の感触を味わう。 


「すごい気持ちよさそうだな」


 俺が問いかければ、リピはうっとりとした顔で頷いた。その顔があまりにも幸せそうだから、ちょっとばかり意地悪をしたくなってしまう。


 俺はリピの背後に周って、後ろからリピの胸の肉を無理やり集めた。さすがに女性のような豊かな膨らみは出来ないが、とても小ぶり山が一瞬だけ出来る。胸の頂にある乳首が痛々しいほどに赤いので、少女のような未熟な清らかさと大人の女性の淫らさが共存しているようだ。


 真っ赤に熟した乳首に付けられた金の輪が、痛々しくも怪しく光っている。その赤と金のコントラストにユーザリは魅入られてしまったらしく、指先で優しく可愛がった。


 普段からピアスのせいで立ち上がり続けている乳首は、すっかり固くなってしまう。あまりにも敏感で可愛く作り返られてしまった乳首は、リピに責め具のような快楽に仰け反る。


 喉ぼとけという弱点をさらけ出す姿は、駆られてしまう憐れな獲物のような荷も見えた。


 固くて大きく膨らんでしまった乳首を憐れんだのか。ユーザリは、そこの優しく手で包んだ。じんわりと伝わってくる他人の体温は暖かいであろうが、刺激に慣れてしまったリピは自らユーザリの掌に胸を押し付けようとする。


 次を求める浅ましさ。そんな自分の姿にさえ気づかずに、リピはユーザリの掌に自分のものを重ねる。そして、自分でユーザリの手を動かして胸で遊んでいた。


 リピは涙で潤んだ瞳で、ユーザリを見つめた。その間にも、リピはユーザリの手を離すことが出来ない。太もも同士さえもすり合わせて、もっと強請っている。


 ユーザリは胸から手を離し、リピの頬にそっと触れた。最初は指先で、徐々に掌で。確かめるように温めるような優しすぎる慰めは、この場には似つかわしくない。まるで、子供を相手にしているようだった。


 それでも、リピは自分を撫でる手を気に入った。自ら頬をすり寄せて、子犬のように甘えるのだ。


 このような場でありながら、子供のような触れ合いをリピは望んだ。まるで、今まで受け取れなかった献身という愛をユーザリから得ているようだ。


 リピは、ユーザリの指を唇で食む。舌先でなでまわし、ついには喉の奥にまで届いてしまいそうなほどに指を口の中に招き入れた。歯を立てずに指に吸い付き、自らの体温で官能を分かち合おうとする。


 ユーザリはリピの乳首に付けられた金の輪に触れて、そこを少しだけ引っ張る。


 乳首からもたらされる体の疼きを抑えなかったらしく、リピはユーザリの指を吐き出した。だが、声が漏れる前に唇はふさがれる。


 ふさいだのはユーザリの唇で、仕掛けられる深い口付けを受けるリピの口の橋からは一筋だけ唾液が伝っていた。先ほどまでたっぷりとユーザリの指に絡めていたから、漏れ出てしまったのだろう。



 ぴくぴくと小刻みに震えるリピの姿は、生殺しの快楽に翻弄されていた。そんなリピを可愛そうに思ったわけではないが、俺は彼の中心部に手を伸ばした。リピを挟んで向こう側にいるユーザリが、共犯者の微笑みを浮かべている。


 こういう時にすら優しげに笑えるユーザリのことが――かなり怖かった。



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