第9話店の再開と閑古鳥
リピを職人に据えて、ユーザリは店を開けた。『霧の花』の目出度い再出発である。
だが、今のところ店は閑古鳥が鳴いているらしい。ユーザリが恐れていたことが起きているようだった。
俺は、ユーザリのところに足を運んだ。店は再出発してからは、初めての訪問だった。
ユーザリの店は、見事に息を吹き返していた。高級感のある雰囲気はさすがのもので、店内のインテリアも趣味がいい。それでいて、老舗の歴史まで感じられた。成り金のいやらしい気配はなく、テオルデとは正反対だ。
ユーザリ本人も前髪を上げて、きりっとした表情で執事を思わせるような黒い制服に身を包んでいた。着慣れているだけあって、実に様になっている。普段着よりは三割は格好よく見えるが、若干悔しいところではあるが。
ユーザリが言っていた通り、本当に店に客は入っていなかった。高級品を扱う店が混雑するなんて事はないが、人気が全くないというのも不安になってくる。店を閉めていた後となれば、なおさらだ。
「やっぱり、店を閉めている間に常連には潰れたと思われていたか……」
ユーザリは、頭を抱えていた。
宝飾品は生活に密接したものではないので、よっぽど好きでもなければ小まめには買い換えない。さらに店が閉まっている間に、別のお気に入りの店が出来てしまえば客には見向きもされなくなる。
俺の店だって陥るかもしれない状況に、背筋が寒くなった。そして、これといった打開策は思いつかない。
食料品ならば、価格を下げることも出来る。しかし、高級品は値段を落とせば、客の中での品物の価値も下がってしまう。
高級品を買うという興奮や特別感。それらも、商品価値の一つなのだ。だからこそ、安売りは高級品店にとって危険な行為である。
高級品店は、高い品質の商品を販売だけではない。それを購入したという満足感も客に提供するというのがセオリーなのだ。
「それにしても……商品の質は上がったよな。デザインだって、今どきのが多いし」
俺がケースを覗き込めば、リピが作った魔石のアクセサリーが並んでいる。宝飾品に疎い俺にだって分かるような繊細な細工ばかりだった。
ファナの父が作っていた時よりも彩りが豊かなアクセサリーが多いのは、リピの感性の若いからか。それとも魔力の調整などが決め手なのだろうか。
「あいつの腕はかなりのものだ。こっちの注文には答えられるし、自分のアイデアだって持っている」
ユーザリは、リピの腕前に満足しているらしい。ガラスケースの中身をユーザリうっとりと見つめていた。その視線の熱っぽさは、恋をしているかのようだ。
俺の心中は穏やかではなかったが、ユーザリの方は自分の店の商品に満足しているようで何よりだ。
「アゼリ様、いらっしゃいませ!」
店の奥から現れたのは、ジーンズ生地のエプロンを身に着けたリピだった。分厚い生地のエプロンは、魔石の加工をするのには都合は良いであろう。ただし、客の前に出る格好ではない。
今は俺しかいないからいいが、他の客いたら顔をしかめられるだろう。いいや、すでにユーザリが顔をしかめている。
「その格好では、店に出てくるな。例え、知り合いが来てもだぞ」
ユーザリは、はっきりと言った。
「店に出るときはエプロンを脱いで、ジャケットを着ること」
ユーザリは注意しながら、リピが身につけている分厚いエプロンをつつく。
魔石を磨くという作業の特性上、たしかにエプロンは汚れていた。石を削ったときに出るのだろう砂埃は、高級店には似合わない。
主に怒られたリピは、しゅんとしていた。もしかしたら、俺の声が聞こえたせいでやってきたのかもしれない。それならば可愛そうだ。
「こんな汚れた格好は、客には見せられないだろ。今回はアゼリしからいないから、試しにエプロンを脱いでみせろ」
リピがエプロンを脱げば、麻で作られた素朴なシャツが現れた。薄いシャツの向こう側には、金の輪っかを付けられてしまった赤い乳首が薄っすらと見えた。下着を着ていないせいだ。
現れてしまったそれに、俺の目は釘付けになる。常に責め苦を受けている乳首は、ぷっくりと膨らんでしまっていた。あれだけ開発された乳首だから、服を着ただけで擦れて辛いのではないかと心配になるほどだ。
「こんなものが万が一にでも客に見られたらコトなんだ。店のイメージに関わる」
そう言いながら、ユーザリはシャツの上から乳首はスリスリとなでた。
優しい手付きであったが、リピの快楽を引き出そうとしているのは確かだ。うっかり触れてしまったと装って乳首に引っかき、再び乳輪をなでる作業にユーザリは戻った。
生殺しの刺激に、リピの頬が赤く染まる。それでも必死に耐えていたリピだが、金の輪を引っ張られて悲鳴のような声が上がった。
「ひっ。いっ、いた!」
金の輪を引っ張られる痛みを訴えているというのに、ユーザリは反対の乳首も引っ張る。
リピの悲鳴と飛散る涙が可愛そうになったので、俺はユーザリを止めた。奴隷が主のものだとはいっても、これはあんまりだ。
「何やっているんだ。痛がっているし、こんな事をしなくてもいいだろ」
俺の言葉に、ユーザリは真剣な面持ちで答えた。他人の乳首を引っ張っている人間の顔ではない。自分の役割に真面目に取り組んでいる表情である。
「リピがいた店で聞いてきたが、劇的に環境が変わるのは奴隷にもストレスになるらしい。だから前の仕事に近いことをさせて、ストレス発散をさせているんだ」
ユーザリなりに、リピの事を考えているらしい。俺の見ている前で前やるな、とは言いたいが。
「リピに元の仕事をさせる予定はないから、こうやってストレス発散をさせているんだ」
ユーザリは、これがリピのためになっていると真剣に思っているらしい。ムニムニと服の上から乳首をいじって、リピを弄んでいる。かわいそうなリピは、小さく腰を揺らしていた。
「リピも楽しんでいるよな?」
ユーザリが尋ねれば、リピは上気した顔で頷く。少しだけ開いた唇から覗く赤い舌がちろりと動いて、物欲しいと言葉なく訴えていた。
ユーザリは、それに心を動かされない。相変わらずリピの乳首をいじめて、彼を追いつめていく。
「ごしゅじんさまぁ……。もう限界です。ずっと御情けをいただけなくて、くるしぃ。抱いて……どうか抱いてください」
リピは両目に涙を溜めて、ユーザリに必死の懇願をした。もはや、自分の肉欲のことしか考えられていないようだ。
リピの視線は、ユーザリのズボンに向けられていた。主人の業火で焼かれてしまいたい。そんな欲望が、あからさまに分かるほどの熱っぽい視線であった。
「でも、今はお仕置きも兼ねているからな」
触って欲しいとばかりに、突き出された乳首をユーザリはぎゅっとつねり上げる。両手で二つの乳首を同時につねられて、あまりに強い刺激にリピは息すらも止めてしまった。姿勢だけは崩さないようにしているが、足は憐れに震えていた。
そんなリピを労るように、ユーザリは乳輪に当たるか当たらないかの位置で指をくるくると回していた。じらす指の動きは、リピの熱を消さずに燻ぶらせるだけだ。
「もう一度言うぞ。エプロン姿では店には出るなよ」
そういえば、そういう話だった。
唐突に始まったユーザリのお仕置きは、最初の問題をすっかり忘れさせるほどの衝撃があった。
リピは、突然に終わってしまった愛撫まがいの御仕置に戸惑っている。ユーザリに続きをする気がないと分かれば、リピは「はい……」と消え入りそうな返事を返した。
完全に油断していたリピが気を抜いた瞬間に、ユーザリに親指がぐにゅりと音がしそうな強さで乳首を潰した。
「あっ、ああ!」と言葉にならない声が響き、今度こそリピの膝は崩れた。
床に座り込んだリピは、荒い息で肩を上下させている。リピは捨てられた犬のような目で主のユーザリを見つめていたが、主人は非情だった。
「今回は、これで終わりだ。少し休んでから、仕事に戻れ」
リピは絶望の表情で、ユーザリを見上げていた。ユーザリは、もはやリピに興味をなくしたかのようだ。涼しい顔をして、ショーケースを布で拭いている。
「……はい。しばらく、休ませていただきます」
リピはエプロンを拾い上げ、それをぎゅっと抱きしめた。
そこで、ようやくオレの存在を思い出したらしい。さすがに元性奴隷であろうとも気まずかったようで、俺に頭を下げてから早足で店の奥に向かう。
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