第31話 ホンモノのご褒美
「あら。随分と早いお戻りですね。その様子だと何かを掴めたのでしょうか。それともより、深みへとハマってしまいましたか?」
「ええ。お医者さんのお陰でひどい目にあった気がする。それでも必要なことは言ってもらえた気がする。それで相談があるのだけれど」
ベッドの上のホンモノは驚いたいるようには見えなかった。少女が再び訪れることを予め知っていたみたいだ。
「この世界の事で相談があるのだけど」
少女がそう切り替えしたときでさえ、ホンモノは動じた様子もなく、むしろ待っていましたと言わんばかりに身を乗り出してくる。
ほんと、どこまで知っているのだろうと疑問に思ってしまう。この部屋にはモニターなんてひとつもなくて塔のてっぺんとはまるで違うところなのにお姫様より、お医者さんより、このホンモノが一番世界を見渡している気がする。
「私に出来ることはもう多くはありませんが、それでよければなんでも相談してくれだい」
「多くないって?」
「見ての通りですよ。私は動くこともままならなくなってしまったただの抜け殻。影武者なんて言ったけれどもうどちらが影か分からないくらい。もう朽ちていくだけの抜け殻に出来ることは少ないのですよ」
「そうは思えないけれど? アナタにしか出来ないことがあるからこそ、ここにいるんじゃないの?」
お医者さんのことだ、いらなかったらすぐに処分してしまいそうなものなのだけれど。
「ふふ。これは多分ご褒美なのですよ。長らくこの世界を管理してきた私へのね。だから創造主様が眠るこの部屋で安らかに眠れと。そういうことだけなのです」
「どういう事?」
「これも人間の真似でしかありませんが。死後の世界というものがあるらしいのです」
死後の世界。死とは動かなくなることだ。しかしそれはまた修理すれば良い。全てのパーツを交換してしまって記憶を移し替えればそれもまた動き出せる。まあ、その必要があればこそだが。しかしそうでない固体に行く場所なんて無いはずだ。
「人間は死んだら蘇ったりしないのですよ。ですから私達のようなアンドロイドが産まれたのでしょう。結局のところ代わりに過ぎないのです」
「代わり?」
「ええ。人間の代わり。最初は戦場で死にゆく人間の代わりとして作られた。次第にその数を増やしていった。きっと都合が良かったのです。自分たちの代わりに犠牲になってくれる存在と言うものが。そしてそれをいくらでも増やすことが出来ると言う事実が、急速にアンドロイドの技術を進めた。その結果、生物を死滅させる兵器なんて言うものが出来上がってしまうのですが、それはまた別の話でしょう。えっと、それでなんの話でしたか」
「創造主と一緒にって」
「ああ。そうでした。人間は死んだら終わり。だからこを終わらせないための世界を作ったのだと思います」
「それが死後の世界?」
「ええ。私達にはない感覚ですが、弟はそれを知っていて、それがあるなら意志を全て引き継いだ抜け殻の私にもそこに行けるのだと言っていました。まあ、気休めの言葉でしか無いのですけれどね」
「……そう。イメージは出来ないけれどそういうものがあるのは分かった。でもアナタにしか今のところ頼めないから」
「そうですか。それは一体なんなのでしょうか?」
少女は話し始めた。リセットを止めたいこと。ただ止めるだけじゃダメなのは分かっていること。そのためにやりたいことを拙い説明だったけれど、しっかりと伝えた。
「ふふふ。やっぱりアナタは弟によく似ています」
全ての説明を聞いたあとの一言に少女は拍子抜けする。出来る出来ないではなくてただの感想だった。
「そうなの?」
「ええ。元々成長するアンドロイドを考案したもの弟です。世界を維持し続けた結果自分自身に限界が来てしまった。そしてその壁を乗り越えたら次にやってきたのは街の限界でした。同じことを繰り返していることに無理が生じた。それを乗り越えるための成長する固体です。しかし、それも中々成功例が生み出せない状況。アナタはそれを実現した上に更に越えようとしている」
「うん。そうでなくてはリセットを消せないから」
「細かなリセットは消せるのですけど」
「それも知ってる。でもオールリセットだけはなくすことは出来ない。いくら成長したってオールリセットで全てがなかったことにされるのは悲しいことよ」
「そうですが……いえ。私が言うことではないですね。何年も続けてきてすっかり慣れてしまいましたから。弟と影武者以外は何度、作り直したか分かりません。そんな私にアナタの気持ちが分かると言ったところで嘘のように聞こえてしまうでしょう。協力はします。現状実現不可能なことも承知でしょう。まずは弟の説得。その間に少しでも可能に出来る方法を探します」
「ええ。それについてあてがあってアナタに相談しに来たの。おそらく私の中には創造主の記憶データが紛れ込んでいる。それを抽出して調べてほしいの」
「なんと言いました? それは本当ですか?」
始めてみたホンモノの驚いた顔。少女も確信があるわけではない。しかし、そうでなくては少女が見る夢の原因を説明ができない。
「おそらく。アナタとの会話を夢で見たの」
創造主はホンモノのことを哀れんでいた。自分の都合で作り出してしまったことに。そして身勝手だったと後悔していた。それを伝えるべきかは悩んだが、少女の口から伝えるべきではない。ホンモノが抽出した記憶を読み解いてくれればそれでいい。
「それが本当であればすぐに作業を開始しましょう。隣に設備は整っています」
「隣に? どうしてこんな地下に?」
「それはここが創造主の研究部屋だったからですよ」
どうやらそれがご褒美の中身だったようだ。とは言え、少女には理解できないご褒美だった。
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