第30話 たとえ夢だとしても

「それでお姫様たちは今の状況を改善する気はないってことね」


 何をどう說明していいか分からず、とりあえずお姉さんから依頼されたことだけを話した。街の危機を救うつもりなんてなくて、それどころか意図的に繰り返しているなんてとてもじゃないが説明できなかったので現状のことだけを伝えた。お姉さんの感想は最もだ。


「その通り。けど、抵抗したところできっと無駄。お姫様たちは現状を変えるつもりなんてちっともないの。きっと簡単に始末されてしまう」

「そう。それがセントラルの真実なのね。でも私達は諦められないの。それも分かるでしょ?」


 少女は小さく頷くことしか出来ない。リセットするなんて言えない。それを知らないからこそ諦められないと言うのも分かる。お姉さんにとってこの問題は解決しなければその先がない。そう言う話なのだ。いっそのこと話してしまいたい衝動にかられる。リセットのことも全て話してしまえば諦めてくれるはずだ。


 でも、そんなことをしてもなんにもならないことも知っている。リセットが起きて元通り。そしたらもう一度お姉さんは同じ想いを抱き同じ様に現状に憤りそして奮起する。


 であるならば今言う必要はない。伝えることは少女の自己満足でしかない。


「ねえ。どうしてそうまでして状況を変えようとするの?」

「どうしてって。隣いる人がいつ死んでもおかしくない状況を放ってはおけないでしょ。お嬢ちゃんもそうでしょ? それだけよ。人間が行動する理由なんてそんなもんよ。きっと探偵さんもそうだったのでしょ?」


 その通りだ。わざわざ、引き離したのに少女を追って通路を走り抜け。更には庇いもした。理由なんて思い当たらない。本当にただ、少女のことが放っておけなかった。それだけだと思う。もとから人間と言うものはそんな存在だったのだろうか。


 記録の中にしかいないものを想像しようとしても無理だ。彼らが何を望んで社会を作り、何を求めて戦争をし、なぜ滅びなければならなかったのか。それを知る術はない。術はないけれどこの街は確かに人間の模倣が出来ているようにも思える。


 だって探偵さんは人間臭いんだ。行動が、言葉が。生き方が。まあ、それはお姉さんも一緒だ。そう考えるとこの街は上手くいっているような気もしてくる。それこそリセットさえなければだ。


「ねえ。仮の話。もし、今起きていることがすべて夢だったとして。目が覚めたら全て忘れてしまい、やってきたことが無駄になってしまうと知ったらその夢の中をどう過ごす?」

「なあに、その妙な質問は。……そうね。何も変わらないわよ。変えられないって言ったほうが正しいかな。たとえ夢だろうとも私は私だものそれが忘れてしまっても、そのとき決断した私は私。どう過ごすのが正解とか。そんなものはないけれど。私が選んだ道。後悔はしない。それに忘れると限ったわけじゃないでしょ? もし覚えていたときに間違った道を選んでたなんてそれは嫌だわ」


 そうだよな。探偵さんもきっと同じようなことを言うだろう。ちょっとだけ照れくさそうにしながらぼさばさの髪の毛をぐしゃぐしゃとかき分けながら。そう言うのだ。


「それにね私には叶えたい夢があるのよ」

「夢?」

「そう。たくさんの子どもに囲まれて笑って食事をするの。仲間たちも呼んでそれこそ大所帯でね。それはきっと幸せな時間になるはずよ。そのためにはこの街が脅威に怯えることなく過ごしやすい場所にしなくちゃならないの。だからなんとしてもセントラルには考え方を改めて貰わないとね」


 アンドロイドに子どもは作れない。それはお姉さんの夢は叶わないこと意味している。成長するアンドロイドですら開発途中だと言うのに子どもなんて……。いや、不可能じゃないのでは。少女は不意になにかに近づいた気がした。リセットを繰り返さなくてもいい世界へ近づく何かが。


「お姉さんのお陰で進めそうな気がする。ありがとう」


 突然のことにお姉さんは驚いていたようだが、すぐににこりと笑ってくれる。


「なんか思い詰めていたみたいだけど、すっきりしたのね。なんだか分からないけどよかったわ。それで行くんでしょ? もう一度」


 コクリと頷く。塔へ戻ってお医者さんともう一度話をする。その前に、通路からホンモノのところへと行きたいところだ。急ぐ必要がある。少女の感覚が間違っていなければ、次のリセットはもうすぐのはずだ。


「私も行きたいところだけど、きっと足手まといになっちゃうから。帰ってくるのを待ってることにするわ」

「うん。待っていて。ちゃんと探偵さんも連れて帰るから」


 私のことを覚えてくれているお姉さんのところへ帰ってくるためにも。先へ進まなくては行けないのだ。

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