第17話 推しのアイドルとウェディングドレス


 仕事が終わり、晩ご飯を食べ終えて、俺たちは2人でソファーに座ってのんびりとバラエティ番組を眺めていた。

 音葉は俺の膝を枕にしながら寝っ転がる。お風呂上がりの音葉からはシャンプーのいい匂いがしてドキドキしてしまう。


 その番組では、とある新婚芸能人夫婦が結婚式を挙げるという内容であった。


「ねぇ音葉、俺たちは結婚式挙げなくて良いのか?」

「う〜ん……私たちだと、そんなに沢山の人は呼べないし、お金もかかっちゃうからなぁ……」

「そっか、音葉のウェディングドレス姿見たかったなぁ〜」

「なるほど、結婚式とか興味なさそうなゆうくんが、提案してきたのはこれが理由か」


 俺は本心を言い当てられて思わず顔が赤くなってしまう。


「ふふっ、ゆうくんったら顔真っ赤だぞ!ほんとに可愛いなぁ……」

「う、うるさいなぁ……!可愛い音葉が見たいと思って何が悪いんだよ……」


 俺の膝で横になる音葉はニヤニヤと悪戯っぽい顔で俺の方を見て笑っている。


「あ!それじゃあ、写真館に写真撮りに行くのはどう?」

「ん?なんだ写真館って?」

「ゆうくんは、ウェディングドレス姿の私が見たいだけでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「だったら、写真館でドレス姿の写真を撮って貰えば良いじゃんか!」

「なるほど!さすが音葉!」

「ふっふっふ〜」

 音葉は、俺に褒められたのが嬉しかったのかニコニコだ。

 そういう単純なところが、可愛すぎる。


「じゃ、来週の週末にでも、アイドル時代に何回かお世話になった所予約しておくね」

「ありがとな!音葉」

「も〜ゆうくんのためだからね!仕方ないな〜!」



 *****



 写真館に到着し、扉を開けると、昔ながらの雰囲気が広がっていた。店内は暖かい照明で照らされ、壁には懐かしい写真機のポスターや色褪せた写真たちが飾られていた。


「わぁ〜ここの写真館……懐かしいなぁ……!」

「俺初めて来たかも……なんか緊張する……」

「ふふっ、ゆうくんったら顔こわばりすぎだって!」


 音葉は案外ウキウキの様であった。

 恐らくウェディングドレスへの憧れは少なからずあったのだろう。


 そんな音葉を見ていると、こっちまで嬉しくなってしまう。


 そして、手を繋ぎながら店内の奥へと進むと、年配のおじいちゃんが、出迎えてくれた。


「これはこれは、結城様……お久しぶりでございます」

「わ〜!覚えててくれたんだ!嬉しいです〜!」

「結城様は表情豊かでしたので、印象に残っております。ところで、本日はウェディングドレスでの撮影という事でよろしかったですか?」

「はい、それで大丈夫です!」

「それでは、こちらでございます。旦那様はあちらへ」


 そうして、俺たちは別々の更衣室へと案内された。


 俺は、音葉のウェディングドレス姿にドキドキワクワクしながら、自分の着替えを進めた。

 先に着替え終わり、音葉のことを待っていると、更衣室のドアが開き、美しい音葉がやってきた。


 音葉のウェディングドレスは、純白のシルクがしっとりと輝き、夢のような優雅さに包まれていた。ドレスの裾は長く、音葉の歩みを一層引き立てている。

 上半身にはレースが施され、透明感ある肌が透け際立っていて、音葉の美しい体型も相待って、天使のような美しさであった。

 その姿の音葉を見て、俺は思わず息を呑んでしまう。


「ど、どうかな……ゆうくん……?」

「そ、その……まぁ良いんじゃないか……」

 と言って、俺は思わず目を背ける。


「あ〜!恥ずかしがってる!ここで可愛いって言うのが男らしいんだぞ!」

「うっ……めちゃくちゃ可愛いよ……マジで天使みたい……」

「ふふっ!ありがとね!」


 音葉はにこっと俺の方を見て微笑んだ。

 その屈託のない笑顔で、俺の心臓の高鳴りは最高潮に達した。


 そうして、写真撮影は、概ねスムーズに行われた。

 まずは、音葉1人での写真撮影から始まった。

 流石は元大人気アイドルで、写真に撮られるのは慣れているのか、全ての写真に可愛さが溢れていた。


 問題は、俺との2ショットの際だ。

 俺の顔がこわばっていると、言われることが多く、何度も撮り直しになってしまった。

 撮り直しと言われる度に、音葉に「しっかりしてよ!」と言われるが、無理がある。だって仕方ないじゃないか、天使が隣にいるんだから。


 こうして、俺らは幸せな時間を過ごす。




 この日の写真は、玄関先にずっと飾られることになった。





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